乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 21









突然、頭を何かに殴られたような衝撃が俺を襲ったんだ
俺の短い悲鳴に、斜め前を歩いていたが振り向いて



「雅紀!!」



驚愕に表情を歪めて倒れる俺の体を支えてくれた

でも


覚えているのはそこまでだった









「お前等・・・!」



丁度露天風呂の男湯の脱衣所に入った直後だった
力を失って倒れてきた雅紀を咄嗟にささえて床に膝を突く
後頭部から紅く滲み出ているのは明らかに雅紀の血だった
脱衣所の中には俺と、雅紀と、そしてたった今雅紀を後ろから殴った男
その後ろには数名の仲間であろう三人の男も立っている
一番入り口の近くに立っていた男は後ろ手に脱衣所の扉を閉めて

男たちは誰もが大柄だった

明らかに後ろの三人は外国人
雅紀を殴った男はフードつきのトレーナーを着ていて
片手はメリケンサックをつけたグローブ

そいつらの雰囲気は明らかに危ないものだった
俺は雅紀を庇うように自分の胸に抱きこんでそいつらを見上げる
目の前の男は後ろの三人に目配せをして俺を取り囲んで
後ろに回った奴が突然ガーゼのようなもので俺の鼻と口を塞いできた



(クロロフォルムか・・・!?)



眠らせて連れ去る人攫いには良くあるケースだ
しかしここで抵抗すれば気を失っているであろう雅紀が危ない
こんなにも大柄な男四人を相手になすすべも無く
息を止めて抵抗はしたが他の二人に動きを封じられてそれでも抵抗を続けた
ガーゼごと相手の指先に思いっきり噛み付いて後ろから押さえ込んでいた男は手を引っ込めた
しかし俺の両腕を拘束した二人は放そうとせずに俺を床に叩きつけて押さえ込んだ



「・・・くそっ放せ・・・!!」



叫ぼうとした所でまた男に、今度はガーゼ無しで口を塞がれて
それまで目の前に立っていた男は気持ちの悪い笑みを浮かべて俺に告げた



「可愛い抵抗は構わねぇけどさ、ホラ
あんまり手を煩わすと目の前でこいつをボコボコにしてやるよ?」



俺が床に引き倒された事で雅紀から距離が離れてしまった
男の足元には気を失った雅紀
その様子に俺は息を飲んで相手を睨みつける
俺の視線で叫ぶことはしないだろうと踏んだ男は後ろの男に口を覆っている手を放す様に告げた



「・・・お前ら・・・今日ワゴンでつけてきてた奴らだな」

「・・・、君に相応しい最高の部屋を用意してるんだ
あんなマンションじゃなくて君に相応しい、素晴しい場所だよ」



雅紀を跨いで俺に近づいてきた男は押さえつけられた俺の顎をとって俺の顔を舐める様に見る



「その綺麗な首筋に良く似合う首輪だって用意してる
そんな服なんて必要ない、ありのままの君の姿を早く見たいなぁ・・・」



つっと首筋から入り込んできた男の手の感触に総毛立って身を捩る

雅紀

起きてくれ

ここから逃げてくれ、こいつらの手が届かない場所に

そう思って床に倒れ伏している雅紀を見るが雅紀はピクリとも動かない
床には徐々に大きさを広げつつある赤



「・・・解ったよ、お前らについて行く、それでいいんだろ」

「ああ・・・いい子だ、早くその美貌を余す事無く俺の目の前に晒して欲しい・・・」



この男だけではない
こいつら四人とも俺の熱狂的なファンらしく俺の体にベタベタと触れながらも
露天風呂の先から裏手に回って俺を連れ出すつもりだったらしく向かう足取りに迷いがなかった
つまり俺が来るのを待ち伏せしていたということになる
外に出ると同時に俺の両手を後ろ手に縄で締め上げられて、口は布で塞がれる
俺が逃げないように左右後ろで俺の体をつかんで

見た事のある白いワゴン車のトランクまでたどり着くが運が悪く、だれも駐車場には居ない
唯一日本人らしい男はワゴンの後ろを開けて、俺に乗るように促した
渋って脚を止めていると脚をつかまれ簡単に持ち上げられる

そのワゴン車の後部座席があるはずの場所に取り外されているのか座席は無く
全ての窓には外が見えないようにカーテンで仕切られていて
変わりに柔らかい毛布が敷き詰められていた
その上に投げ込まれた俺は上半身を起き上がらせると同時に他の二人も乗り込んできて
簡単に押さえ込まれてしまう


(万事休す・・・か)


男共の下品な笑みを視界に捉えて

諦めるように眼を閉じる

トランクの扉が閉められた時が最後だ
俺は完全に逃げ場を失って、こいつらの玩具になる

(雅紀・・・大丈夫だといいんだが)

ふと脳裏に頭から血を流した雅紀の姿が過ぎってまた目を開ける
今、正にトランクが閉まろうとしていた所で
突然閉めようとしていた男の体が横に吹っ飛ぶのがトランクの閉まるほんの少しの隙間から見えた



「・・・?」



その様子に他の男も何事かと体を緊張させる
隙間から新しく見えたのは黒いズボン

そしてトランクを開く逞しい指先

がばぁっと効果音でもつくのではないかと思うほど勢い良く開かれたトランク
旅館の駐車場の景色が見て取れると同時に、それを背景に

1人の男が俺以外の二人を黒いサングラス越しに睨み付けた

即座に俺の両隣を陣取っている二人の男の胸倉をつかんで車から引きずり出すと
その二人を凄い力で引き寄せて左のストレートで一発KOしてしまった
男の足元には気を失った四人の姿
その四人の意識が無いことを確認した黒い男はゆっくりと俺に顔を向けてその姿を確認する



オールバックの金色の長髪に黒のサングラス
上下黒のスーツ
ボディビルダー顔負けのマッソーな体付き
二メートル以上はある身長



そいつはギシリと俺が倒れこんでいる車に膝をかけると
軽々と俺を持ち上げて車の外に出してくれた
そして大きな手で俺の口を縛っていた布を解いて腕を拘束していた縄を

引  き  千  切  る

相変わらず豪快なその男に向き直って
やっと俺はそいつの名前を呼んだ



「Jedidiah!!」



久しぶりすぎて、嬉しすぎて思わず抱きついてしまう
彼は向こうで俺専属SPをしていた男だったのだ

優しく、気立てのいい男
相手も優しく俺を抱擁してくれて互いに両頬にキスをして
その直後彼の後ろから警察のサイレンの音が聞こえてきた



「・・・まさか警察を?」



俺の言葉に優しそうに微笑んで頷く男
そして俺に駆け寄るように走ってきた男が居た



!!大丈夫か!!??」



駆け寄ってきたのは鷹士で、後ろから旅館の人がわんさかと出てきて
駐車場内は警察と旅館の人、その他野次馬でごったがえした












雅紀のケガは大事無かったようで、それでも頭の包帯が痛々しくてつい尋ねてしまう



「雅紀、大丈夫か?痛く・・・ないか?」

「ああ、平気だよ、ちょっとした切り傷らしいから」



保健医が居たことをこれほど感謝したのは初めてだ

どうやら俺が連れ去られる時に意識を取り戻した雅紀は直にその脚で旅館の人に事情を話して
旅館の入り口で公衆電話を握っている鷹士にばったりあって
すぐに保健医の所に向かって手当てを御願いしたらしい
蓮と鷹士はそれから駐車場に走ってきたらしいのだが

そして今、やっと警察の事情聴取も終わって部屋に帰ってきて
待っていた保健医と雅紀の顔が見れた状態だ
俺の後に入ってきた大男を眼にした瞬間の保健医と雅紀の表情は思わず笑ってしまったが



「・・・まぁ、無事で何よりだったな・・・で、そいつは誰だ



早速聞きたかったかのような表情で質問されて
そいつ、と指指された男に振り返る



「ああ、こいつは俺がモデルやってた頃に専属のボディガードとして働いてた奴の片割れ
今回俺を攫おうとしてた奴の中に外国人が混ざっててさ、向こうでも結構危ないファンってことで
SPの間では問題視されてた奴らだったらしくて、今回俺を追って入国したことを知った・・・
こいつ、ジェディディアって言うんだけどミドルネームは『 J (ジェイ) 』
Jがもしやって事で数日前からマークしてたらしいんだ」

「・・・優秀なボディガードだな」



保健医は感心してはいるがJの見た目が怖いのか俺に近づこうとしない
保健医だけではない、蓮や雅紀ですらおいそれと近づけない見た目の怖さなのだが
鷹士はその突然降って湧いたうさんくさ・・・く見えるらしいJに怖気づく事無く
しっかりと俺の手を握っている
そして後ろに控えているJに攻撃的な視線を向けている状態

このJを目の前にしても尚怯まない鷹士のブラコン魂にはある意味感心させられてしまった



「ボディガードかなんだかは知らないが・・・さっきはを助けてくれて有り難う」



(鷹士・・・有り難うっていう顔じゃないと思うんだが)
厳しい表情のまま御礼を述べる鷹士にため息をついて
そういえばと疑問に思ったことをJに聞いてみた



「そういえばKはどうしたんだ?一緒に日本に来てるのか?」

「・・・Kはもう一つの不穏分子の制圧に向かっています」

「あそぅ・・・相変わらず仕事速いね・・・」

「いえ、様の為でしたら当然のことで御座います」

「・・・日本語上手くなったなぁJ・・・」



保健医が「Kってなんだ?」と訊ねる



「ああ、Jと同じく俺の専属のSPでケビンって言うんだ
肉体的ボディガードがJで精神的ボディガードがK」



簡単に説明をしていると部屋に豪華な夕食が届く
数人の旅館の人は部屋を空けた途端に視界に入ってきたJの姿におののきつつも
俺たちの目の前に沢山の料理を置いてそそくさと退散していった



「・・・J、お前、どうすんの」

「とりあえず部屋に戻ります、この方達は様の障害物では無いと判断しました」

「しょ、障害物・・・」

「この方と、其方の方には気をつけてください、何か嫌な雰囲気があります」

「・・・ああ、はいはい
来てくれてサンキュ、J」



この方と其方の方と言って指摘された二人というのは

鷹士と

保健医

なんとなく納得出来たのは多分二人の人柄の所為だろう
いつもの様に抱擁してキスを送ってJに手を振った
Jが部屋を出て行った所でやっと口を開いた蓮



「まさかSPまで尾行が付いていたとはな
・・・とりあえず、夕食を頂こうか」



そんな蓮の言葉に食事を開始する一同
鷹士は食事の最中でも手を放そうとしなかった