乙女的恋革命ラブレボ
花一匁 ―はないちもんめ― 24
「先輩大丈夫だった!?」
「攫われかけたって・・・先輩・・・俺がついていればそんな奴ら・・・」
プチ旅行からマンションに帰ってきて
たまたまヒトミの部屋に訪問していた颯大と剣之助が
眉間に皺を寄せて、ただならぬ表情で詰め寄ってきた
鷹士はそんな二人の様子に「心配されてたんだなぁ」としみじみ嬉しそうに言ってるし
ヒトミも俺の様子を窺ってなんともないことに安心した表情を見せていたのだが
目の前に居る二人は違うらしい
「この間の事、早く先輩に伝えていれば
今回危ない目に合わせずにすんだかもしれないのに・・・!」
「そうか・・・やっぱりあの男が先輩をストーカーしてたのか・・・」
悔しそうに歯を噛んでいる剣之助
しゅんと申し訳無さそうに俯く颯大
俺は苦笑いして二人に有り難うと告げた
「心配してくれてサンキュ、でも俺はこうやって無事だし・・・」
「でもっ!・・・でも、先輩に・・・あの時女装した先輩でも早く伝えひぇぶっ!!!??」
颯大の両頬を片手でムニっとつかんで握力を込める
そんな俺の行動に一歩あとずさる剣之助、ソファに荷物を置いた状態で固まる鷹士
聞き取れなかったのか首を傾げるヒトミ
ぐぐぐと握力を込めつつ颯大の歪んだ顔を覗き込む
「えーと颯大?今の聞こえなかったからもう一回言ってもらえるか?」
「むぃぃぃいいいいい!!!!」
眼に涙を浮かべつつ首を必死に左右に振る颯大
「んー?今何も言わなかったって?」
「むう!むぅう!!」
「そうかそうか、今のは空耳か」
俺の言葉にまたも必死に頷く颯大
俺はその答えにニッコリと笑顔を作ってその手を放す
多少頬に俺の指の痕が赤くついているが直に消えるだろう
とりあえず心配してくれた二人には事情を話して部屋に戻ってもらって
ヒトミも「今度から外出の時は気をつけてよね!」と捨て台詞を俺に残して部屋に戻って行った
必然的に部屋に残っているのは旅行から帰ったばかりの
俺と
鷹士
「・・・」
「・・・」
二人っきりになった途端この異様な雰囲気はなんなのだろう
そう思いつつ自分の荷物をソファに置いて振り返れば
一瞬だけ交わった視線
詳しく言えば俺を見ていたらしい鷹士が、俺が振り返ると同時に視線を逸らしたのだ
そう、俺はこの旅行の帰り道ずっと妙な違和感に襲われていたのだ
その違和感の元は鷹士の言動
車の中でも俺は座席の一番後ろで
話しかければそっけなく返されて会話も続かない
もっと厳密に言えば鷹士の様子がおかしくなり始めたのは、朝
保健医が俺にちょっかいを出してから後だ
最初は朝の挨拶も普通にしていたのにあの後突然よそよそしくなったのだ
まぁ二日酔いと言うのもあるのだろうが
俺から視線を逸らした鷹士の顔色は決して良いとは言えない
むしろ激しい二日酔いで車に乗っているのも辛かった筈だ
そう思って鷹士のいるリビングのカウンターに向かうと俺の動作に僅かに視線を向けて
どこか驚いたような表情を見せて直に顔を伏せた
鷹士の目の前まで来るとその顔を覗き込む
純粋に二日酔いが辛いのだろうかと思っての行動だった
「・・・鷹士、大丈夫か?やっぱり保健医の薬じゃ、帰りも辛いの我慢してたんだろ?」
「い、いや、兄ちゃんは平気だぞ!お前も短い旅行とは言え色々あったんだ
先に部屋に帰ってゆっくり休んでいなさい!」
「・・・」
笑顔で返されるも顔色は良くない
その一目で分かる様子に俺はため息をついて
鷹士をソファに促した
「無理してるのがバレバレだっての!ちょっと氷持ってくるからソファで横になってろよ」
「ああ、それぐらいなら自分で出来るから、も疲れてるんだし、な?」
「うっさい、大人しく横にならないとアイアンクローするぞ」
「・・・」
ぼぅっと突っ立っている鷹士の手をつかんでソファに引っ張る
困った表情のままソファの前まで来た鷹士はゆっくりとした動作でソファに腰を下ろすと
そのまま横になって柔らかい手すりに頭を置いた
それと同時に上下する鷹士の胸板
ホラ、やっぱり無理してたんじゃないか
俺は小さくため息をつくと台所にアイスノンを取りに向かう為に握っていた手をはなそうとして
逆に強く腕をつかまれて、腕をつかんできた鷹士の目に視点を合わせる
他に何かいるのだろうか、と思い当たって
「・・・鷹士、アイスノン以外に何かいるのか?何か食いモン欲しいとか?」
「・・・」
「鷹士・・・?」
質問しても反応はない
鷹士の瞳は、何を見ているのかぼぅっと宙に浮いたまま
そのまま俺を見る事無く告げられる言葉
「が・・・」
「・・・俺が?」
「・・・欲しい」
・・・
・・・は?
呟くように紡がれた言葉は俺の理解を軽く超えていた
鷹士の言葉が意外過ぎて反応すら返せないまま唖然とする
目を見開いたまま鷹士を凝視していると、ふ、と
鷹士の視線が揺らいで俺に向いた
視線が絡まる
俺は流石になんと返事を返せばいいのか、分からなくなってしまった
いつもなら
いつもなら平気で「くだらない冗談言ってんなよ」とか言って返すのに
きっとそのいつも、が出なかったのは
昨日、鷹士からの突然のキス
その出来事を脳裏で鮮明に思い出してしまって、顔が熱くなるのが解った
そして今し方の言葉と同じことを言って眠ってしまったのだ
『 が欲しい 』
そう言って昨日、眠ってしまった鷹士
まさか
昨日完全に泥酔していると思っていたから安心していたのだが
まさか記憶が残っているのだろうか
そうなれば、昨日の背中の傷も見られているはず
俺は困惑から何も言い出せずに鷹士から視線を外してしまう
「何言ってんだよ鷹士、まだ酒、抜けてないのか?」
拘束された腕が
外れない
「」
「・・・なんだよ」
今度はしっかりとした口調で名前を呼ばれて
不貞腐れ気味にもう一度鷹士の方に顔を向ける
それでも視線を合わせることが出来ずに、鷹士を視界に収めるだけの状態になってしまった
その視界の中の鷹士は、ほんの少し笑ったように見えて俺は思わず鷹士ニ視線を絡めてしまう
「・・・、兄ちゃんは・・・のことならなんでも知りたい
今まで離れていた分、沢山、沢山知りたいんだ」
「・・・ぅ、ぅん・・・」
「だから、な?が話してくれるまで、待つから
兄ちゃんは問い詰めたりしないから・・・そんな、悲しそうな顔はしないでくれよ?」
「・・・鷹士」
「兄ちゃんはがとても大切なんだ、だから・・・」
「・・・うん」
「だから・・・っあの若月先生にだけは安易に近づいてくれるなよ!!???」
「ぅん・・・ ・・・んん?」
「若月先生だ!あの人は男女見境なさそうだから兄ちゃん物凄く心配なんだぞ!?
兄ちゃんの知らない所であんな危ない不良教師には近づいたら駄目だからな!!???」
「・・・」
何時の間にか俺の両手が鷹士の両手にがっちりと包み込まれていて
必死の形相でそう訴えてくる鷹士
その元気そうな様子に一気に冷めた俺は
「帰る」
べしぃっと包まれた両手を弾いてきびすを返すと玄関に向かった
「ああ!!まだ話は終わってないのに!!」等と頭に響きそうな声で叫んでいる兄を放置して
アイスノンさえ渡す事無くそのまま部屋へと戻った
(・・・なんか俺だけ無駄に慌てふためいて・・・馬鹿みてぇ・・・)
昨日の出来事と今日の鷹士の言葉に何故か振り回されてしまって
そりゃそうだ
実の兄から「お前が欲しい」などと言われてしまえば戸惑うのも無理は無い
しかし
その言葉を言ってのけたのは自分の兄だと自覚するべきだった
否、自覚はしていた筈なのに振り回されてしまったのだ
あの超ブラコンの鷹士に
(本当・・・馬鹿だろ、俺)
乙女みたいに顔に熱持って
背中のこととか色んな意味で心臓バクバクしてたのに
この時ばかりは流石に
俺より年上の実の兄、鷹士を憎らしく思ってしまった