乙女的恋革命ラブレボ
花一匁 ―はないちもんめ― 25
覚えている
昨日の出来事
思わず腕をつかんでしまって
言い訳に先生を持ち出してしまったんだ
あの背中の傷はなんなのかとか
兄弟なのに唇にキスをしてしまったこととか
あの先生がにちょっかいを出した瞬間
本当に怒りが込み上げてきたこととか
『 煙草の味 』
の 『 背中の傷 』 と同じぐらい気になるあの言葉
さっき
が俺の言葉に顔を真っ赤にしたのは流石に驚いてしまったけど
そんな反応に
思わず緩みそうになる口を必死に抑えて
思わず引き寄せたくなった衝動を必死に抑えて
からほのかに匂う
甘い、甘い香りだけで我慢した
それ以前に、そう、俺とは兄弟で、しかも男同士で、血縁で、俺が兄でが弟で
・・・
でも可愛いし
そこら辺の女性より綺麗だし
俺の前では素直で、子供っぽくて、やんちゃで
どんなに抱きしめても足りないほど愛しくて
・・・
っ て 違 う だ ろ !!
俺のこの感情は兄弟愛!そう、兄弟愛なんだ!!
そう自分に言い聞かせつつ
思わず1人で頭を抱えながら勢いよく起き上がる
その拍子に二日酔いの薬を飲んでもまだ重症な頭の中身が一回転した
「・・・ぅっぷ・・・」
やばい、これは流石に休まないとまともに動くことすら出来ない
が出て行った玄関をチラリと視界に捉えて
のろりと起き上がると台所にフラフラと向かった
アイスノンを手に入れて、自分のベッドに潜り込む為に
「あ、先輩」
「お、橘、また颯大の部屋行ってたのか?」
「はい・・・あと、これ颯大から貰ったんだけど、量が・・・多くて」
たまたまコンビニに買い物に行こうとして一階で剣之助に会った
剣之助の手には大きなポリ袋
その中には大量に色とりどりのお菓子が入っていて
その様子にチラリとコンビニの方角に目を向けた俺は丁度いいか、と剣之助を見る
「俺もこれから何か小腹に入れようかと思ってたんだ
丁度いいから少し分けてくれるか?」
「勿論ッス・・・あ、良かったら俺の部屋寄ります?
飲み物出しますよ」
「お、マジ?やっぱ持つべきは後輩だな〜」
カラカラ笑って相手を見ると少しだけ視線を交わして視線を彷徨わせる剣之助
部屋の扉を開いて中に促してくれたのでいそいそと部屋に上がりこんだ
和室仕様でとてもさわやかな空気が漂っている
ほほう、剣之助の部屋は初めて入ったがこう・・・なんというか
「薪を割ったような爽快感漂う部屋だな」
「・・・ ・・・やっぱり双子なんスね、先輩とヒトミ先輩・・・」
「あ?」
意味深な言葉に振り返れば小さく笑いながら俺を見ている剣之助の姿
何がそんなにおかしいのか、と甲斐甲斐しく表情を歪めるが剣之助はまだ笑っている
その表情はこの場に女性でも居れば誰しもが見惚れてしまうような柔らかい笑みだった
流石学校のNo'4
座布団の上に促されたのでそこに腰を下ろしつつ
剣之助は飲み物を用意する為に俺の目の前の低いテーブルに菓子の入った袋を置くと
台所に姿を消した
しかしそれも少しの間で直に姿を見せた剣之助の両手にはコップ二つと
100%グレープジュースのパックが一本
(・・・ぶどう・・・)
そのジュースに目を奪われつつ目の前に向き合うように腰を下ろした剣之助をじっと見つめた
俺の視線に気がついた剣之助は二つのコップに適量のジュースを注いで
パックのフタを開けたまま俺と剣之助の斜め横に置くと俺にコップを差し出しながら視線を合わせて
俺の視線に窺うように、躊躇いがちに声をかけてきた
「・・・あの、なんスか?」
「いや別に」
「別にって・・・」
剣之助は苦笑いで間を紛らわすかのように自分の手元にあったコップの端に口付けると
コップを傾けて露になった喉が上下した
俺も飲もうとコップの取っ手を持ちながらその様子を見つめて
「橘ってやっぱり格好良いんだな」
「ぶっ!!」
俺の突然の発言に返ってきたのは
血の雨
・・・ではなく
グレープジュースの雨だったりする
しかも100%濃厚な
剣之助は苦しそうに何度も咽て、涙目で俺を窺うと
サっと顔色を失ったように固まって、また耐え切れず咽始めた
「げほげほっ!せ、先輩!すいません!大丈夫ッスか!!」
「・・・ ・・・ ・・・てめぇ・・・」
顔全体に降りかかったぶどうのエキス
ぽたぽたと前髪から伝い落ちるほど浴びたらしい
一度口に含まれたであろう液体
ぷるぷると小刻みに両手を震わせながら手に握っているコップの取っ手からも震えが伝わっているらしく
コップの中のどす紅い色もユラユラ
低い声で一言口にすれば顔から伝って口内に入り込んでくるのは
一度他人の口に含まれたぶどう味の液体
「ああえっと、た、タオル!タオル持ってきますんでちょっと待っててください!!」
慌てて立ち上がった剣之助は目の前のテーブルに膝をぶつけて
テーブルの上にあったジュースのパックは思いっきり俺の方向にむかって倒れた
一度の不運は更なる不運を呼ぶとはこのことか
剣之助はパックのフタを開けたまま置いていたようで
見事に俺の方角に倒れたパックの口からどばーっと勢いよく溢れ出る紅い液体
それと同時に下半身が思いっきり冷えた
「・・・」
「・・・」
その様子に完全に硬直する剣之助
俺は下半身の状況を視界に入れつつ
コトリ、とテーブルの上に持っていたコップを置く
「・・・橘、タオル」
「はい!」
とりあえず今だ倒れているパックを立てて
幸い畳には零れなかった様子に息をついた
俺の言葉に我に返った様子の剣之助は
急いでバスタオルを一枚タオルを二枚持って小走りに俺の横に両膝をついて
バスタオルを俺の下半身にかけるとタオルを一枚渡してくれた
俺の隣には必死な表情で俺のズボンに染み込んだジュースを拭いている剣之助
そんな様子を見ていた俺はニヤリと表情を歪めた
渡されたタオルで顔を拭く事無くその悪戯めいた笑みを浮かべたまま口を開いた
「橘」
「はい!・・・!?」
突然ジュースまみれの俺の顔がズイっと目の前に現れたものだから驚いた表情を見せて
そんな反応に満足げに笑うとそのまま後退しないように剣之助の顎をつかむ
「せ、先輩?」と戸惑った声を上げながら目の前に迫った俺を見ている瞳をじっと見つめながら
「ぶどうも滴るイイオトコってか?」
「先輩・・・ふざけてないで早く拭かないと匂い残るッスよっ」
「その匂いの残る状況を作ったのは他ならぬお前だろうが」
「う・・・だ、だからこうやって早く・・・」
「一度口に含んだモンを盛大に顔にぶっかけやがって」
「んなこと言う暇あったらさっさと拭いて下さいよ!」
剣之助はバフっと俺にタオルを押し付けて
そのまま前髪をわしわしと、乱暴でもない手つきで拭いてきた
粗方拭き終わって俺のずぶ濡れのズボンに目を向けたまま顔にくっつけていたタオルを離すと
難しい顔つきで考え込んだ
「あの、先輩、ズボン・・・ダメにしてすいません」
「・・・ああ、高かったのに」
さもお気に入りのズボンだったのにと言わんばかりに
拗ねた表情で剣之助を睨みつけてみると
余計に申し訳無さそうに表情を暗くする剣之助
(・・・そろそろおちょくるのは止めてやろうか)
そんなことを思いつつそれでもこの仕返しはしてやらねばと回りに視線を漂わせる
部屋の中でピタリと俺の視線に留まったのは
先程俺が飲もうとしていたコップの中身
本気で申し訳ない表情一枚の剣之助をよそに
またもニヤリと宜しくない笑みを浮かべた俺は徐にそのコップを手に取ると
頬が脹らむほど口いっぱいにジュースを含んで
トントンと俯いている剣之助の肩を突付く
勿論それに反応した剣之助は俯いていた顔を俺に向けて
その瞬間がしぃっと剣之助の顔の両サイドをつかまえて固定すると
顔を斜めにしてそのまま剣之助に口付けた
「んっ!?・・・ ・・・ ・・・ ・・・」
最初は抵抗していた剣之助だったが
俺の脹らんだ頬がしぼむと同時にしんとした静けさが部屋を包んでいた
そして数回、ゴクリと何かを飲み下す音
暫くして口内にあった液体を注ぎ終わると俺は満足気に唇を解放して固定していた手を離した
「・・・先輩・・・」
「ふん、これでおあいこだ」
「おあいこって・・・これ、キス・・・」
「 口 移 し だ
それじゃ何か?さっきの量を思いっきり顔に吹きかけられるほうが良かったか?」
「いやそれは遠慮します・・・って、謝ったじゃないスか」
「許した覚えはねぇ」
「・・・」
顔を真っ赤に染めている剣之助は恨みがましい目で俺に視線を向けて
俺は笑顔のままタオルで上半身に散った赤にタオルを押し付ける
「とりあえずすぐ返すからズボン貸してくれよ
もぅ怒ってねぇからさ」
「・・・理不尽なおあいこッスね」
「何か言ったか?」
「いえ何も、ズボン持ってきます」
ボソリと呟かれた言葉に笑顔で聞き返せばそそくさと奥の部屋に向かう剣之助
その斜め後ろから見える耳までもが
綺麗に紅く染まっていた
主人公は罪作り