乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 26









「・・・鷹士、これ・・・」



朝、リビングに行って見るとテーブルの上には華やか色とりどりの果物
朝食を作っていたらしい鷹士とそれを手伝っていたヒトミが台所から顔を出して
「おはよう」と告げてきた
二人の顔を見ないまま俺もおはよう、と呟くように告げて
テーブルの上に置かれている沢山の果物に不審の目を向けている俺に
エプロンを脱いで椅子に掛けながら鷹士が説明をしてくれた



「ああ、それは父さんの仕事先からのもらい物らしくて
昨日届いたばかりなんだ」

「・・・ふーん・・・」



俺の視線は果物のある一点に注がれている
それに気が付いたらしい鷹士は俺の注目している果物をひょいと持ち上げると
その一房のうちの一粒を摘み取ると
慣れた手つきで皮を取り去って俺の目の前に差し出してきた



「・・・ 何 の つ も り だ 鷹 士 」

「え、だってこれじーっと見てたじゃないか
・・・欲しかったんじゃないのか?ほら、恥かしがることないから、アーンしろって」

「・・・ ・・・ ・・・はぁ」



何がアーンだ、と思うが目の前でニコニコしている鷹士を見ているとため息しか出てこない
俺は仕方がない、とばかりに差し出された果物を迎え入れる為に口を開いた
鷹士の指ごと口に含んで果物だけを口の中に残したまま指から離れてもぐもぐと咀嚼



「・・・ん、甘い」



僅かに酸味の利いた味に昨日の出来事を思い出していた俺は鷹士の様子には気付かない
鷹士は微妙にぎこちない動きで俺の唇が触れた指先に視線を向ける


(ぶどう・・・ぶどうか・・・)


キスの味はレモン味とは言うけれど
昨日の剣之助の態度を思い出して含み笑いしつつ
鷹士に訊ねてみる



「なぁ鷹士、キスの味ってぶどうだと思わねぇ?」

「えっ!?あ、いや俺は・・・ち、違うぞ!?別に何も・・・っ!!」

「・・・何キョドってんだよ」



目の前でぼーっと突っ立っている鷹士に視線を向ければ
濡れた指先を凝視していた鷹士が一瞬だけ視界に入って
話しかけながら視線を動かしたものだからそんな鷹士は一瞬しか見る事は無かったが
鷹士は見つめていた指をばばっと自分の背後に隠して何かを否定する
そんな行動に首を傾げながらもまぁいいか、とそのままキョドってる鷹士を放置して
鷹士の手からその一房のぶどうを取り上げると
椅子に掛けていたカバンを背にかけて
ヒトミが持ってきていた朝食のサンドを三つ口に咥えて玄関に向かった



「お、おい!?朝食位ゆっくり・・・」

「橘んトコ行ってついでにそのまま学校に登校するから
鷹士、このぶどう貰って行くぞー」

「え!?なんで橘君の所に・・・!?説明しなさ・・・」



またも話の途中で玄関の扉を開けるとそのまま剣之助の部屋に向かった
その後学校でヒトミから



「あの後お兄ちゃん泣いてたよ」



と、なんの同情も哀れみも含まない棒読みな口調で告げてきた
きっといつものブラコンな様子に呆れているのだろう
そんなヒトミの言葉に俺も苦笑いで「あ、そう」とつれない返事を返していた















平日の学校が始まろうとしている朝



突然先輩が片手に怪しいものを持って俺の部屋に訪れていた
とりあえず部屋に上がってもらって
朝食がまだだった俺は先輩の持つその 『 ブツ 』 に突っ込みたい衝動を抑えつつ



先輩、朝食は食べたんスか」

「ああ、気にすんなよ、ちゃんと食べてきたからさ」



関わりたくないと思っていたその 『 ブツ 』 を
俺の目の前でユラユラと揺らしながら嫌な予感全開の笑みを浮かべている先輩
朝食は御飯と味噌汁、お漬物に塩味の出し巻き玉子
俗に言う典型的な日本の朝食である
それをテーブルに置いた時点で
『 ブツ 』 に対して突っ込まざる終えない状況に陥ってしまった

俺が食事を始めようと箸を持った時点で目の前のテーブルの上に
嫌味なぐらい 『 そ っ 』 と、置かれる紫色の果物



「手土産、貰っとけ」

「・・・なんかの嫌がらせッスか・・・ソレ」



明らかに昨日の出来事に関係する果物を笑顔で差し出してくる先輩
もしかして実は物凄く意地が悪いのではないだろうかと思わずにいられない
先輩はニコニコとあくまで他意のない様子で
しかし台詞後半は明らかに含みを籠めた口調だった



「昨日俺の両親が送ってきた果物だよ
・・・好きなんだろ、 ぶ ど う 」



(・・・やっぱり悪魔だこの人は)
ぶどう、と言われて先輩が指を指すのは俺の視界斜め上に置かれた見事な巨峰だった
先輩の意地の悪い笑みを無視して無言でもくもくと朝食を食す
その様子を面白く無さそうに頬杖をついてみていた先輩は
徐にその果物の一粒を摘み取るとその果実を軽く唇に押し付けた状態で身を乗り出して
俺が味噌汁の入った椀を傾けて喉に流し込んでいる時点で

図ったかのように爆弾発言をする



「 口 移 し 」

「ぶっ!!!」



・・・

・・・ ・・・

・・・ ・・・ ・・・

これは

俺の所為じゃない

断じて俺の所為じゃないぞ

しかしなにも俺が味噌汁を飲んでいるときに言うか普通
絶対わかっててやってるんだこの人は
なのに俺に非難の声を浴びせて俺で遊ぼうとする


手の内がモロバレなんだよ、先輩


椀で飲んでいたことから
なんとか昨日の様に先輩を味噌汁塗れにする事は避けたが
椀で顔を覆っていた所為で逆に俺の顔が味噌汁塗れになる
椀から顔を離して刺す様な視線で先輩を見るも



当の本人は俺の味噌汁塗れの顔に 馬 鹿 笑 い



腹を抱えて転げまわる始末
それを視界におさめつつも隣においていた綺麗な布巾で顔を綺麗に拭いて
濡れたお絞りで更に綺麗に拭き取る
襟に多少散ったが味噌汁自体が薄味だったので殆ど目立つ事は無い

今だ苦しそうに笑いまくっている先輩

畳にばんばんと手をついてひーひー言いながら馬鹿笑いしている様子を冷ややかな目で見ながらも



仕返しせずに居られるわけが無い



俺はゆっくりと立ち上がって
さっきまで先輩が唇に触れていた一粒の果実の皮を慣れた手つきで剥いて
種を取り除いて実だけを口に含むと
畳の上に転げたまままだ笑っている先輩の目の前に立つと
無表情のまま先輩の両手首をつかんだ
そこでやっと笑いを抑えて、それでもまだ笑い足りないらしい先輩は
噴出しながらも謝ってくる



「ぶっ・・・く・・・た、橘、悪かったよ、まさかあんなにあっさり綺麗に噴出すとは・・・っ」

「全っっ然謝ってるように見えないんスけど」

「悪かったって!な?ホラ、お詫びは今度しっかりさせてもらうから・・・くくく・・・」

「・・・いいッスよ、許す気、ありませんから」

「へ?」



笑いすぎて涙目の先輩は俺の無表情な様子にやっと笑いを押さえ込んで
それでも表情はおちゃらけたまま俺が拘束している手首をはなそうとする
・・・が、勿論離す気など毛頭無いので外れるわけが無い
逆にそのまま両手首を優しく地面に押し付けて、先輩の上に覆いかぶさった
そんな俺の行動にやっと表情をなくす先輩



「た、橘?悪かったって、ちょっと遊びすぎたよ」

「許す気無いって言ったの、聞こえなかったんスか」

「だっ・・・!?ちょ、ストップ!俺グラウンドは素人・・・!」



グラウンドって
殴るわけないじゃないスか

こんなに綺麗な先輩を

そう思いながら自然と口元に笑みが浮かぶが
何を勘違いしたのか俺の笑みに更に無表情になった先輩は
僅かに眉を寄せて俺から視線を外すと落ち込んだ表情を見せる



「・・・悪い、その・・・ちょっとしたおふざけのつもりで・・・
そんなに怒るとは思わなかったんだ」

「・・・」



覆いかぶさっている俺の下で上目遣いに俺の様子を窺ってくる先輩の表情
一つ上の先輩だと言うことも忘れてその表情に魅入ってしまった


やばい


犯罪級に綺麗すぎる


口内に含んでいた目的である果実を奥歯で噛み潰してしまって
続いて広がった酸味のある味
昨日の出来事を思い出すように、俺は誘われるような動作で先輩の顔に影を作った
目的を果たそうとした果物の存在は俺の喉を既に通過していて

この後

「昨日の仕返しだ」とも

「さっきの味噌汁の嫌味つきのお礼だ」とも

なんの言い訳も効かない







純粋な口付けをしてしまうことになる