乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 28









『 ノらなければ良かった 』 と



後悔しても



もう

遅い









幸か不幸か
保健室にはベッドを使っているものも無く
今は三時間目が始まったばかりだ

電気が消されてカーテンに遮られた部屋は予想以上に暗く
それでも薄暗がりの状態なのでお互いの表情だって読み取れる


保健室には今、俺と保健医しか居なかった


保健医が俺で遊ぼうとしていることは見るからに態度で十分に解っていた
だからおちゃらけて、軽い気持ちでしか相手にしていなかったのに



俺を抱きかかえたままの保健医は
ベッドとベッドを仕切っている白いカーテンを鬱陶しげに音を立てて引く
その先に見えたのは清潔感漂う布団

内心俺はワクワクしていた

後に引けなくなって、しどろもどろで負けたと告げる保健医を想像して
笑いそうに成るのを必死で堪えて
前に忠告してあるのだ
ああいった軽いノリで俺を誘うようなら俺もそれにノるから気をつけろ、と


ドサリと多少乱暴に俺をベッドに落とした保健医は
すぐさま俺の上着を剥ぎ取って掛けているだけの真紅のタイを取り払うと地面に捨てる



「もっと丁寧に扱ってくれよ、汚れたらクリーニング代出してもらうぞ?」

「・・・白いシーツに身を任せているお前を見ると理性が追いやられる」



そうは言うもののわざとらしい歯の浮くような台詞に余裕の笑み
ワイシャツの前を肌蹴させると黒のランシャツをたくし上げて
聴診器のイヤーチップを耳にしてチェストピースを俺の胸に向けてくる
冷たい盤が俺の胸に置かれて、その温度差に僅かに肩が揺れた
しかし暫し俺の心音を聞いているらしい保健医は苦々しい表情に変えて俺を見やった



「憎らしいぐらい平常な心音だなお前」

「うわ〜生徒と教師でお医者さんごっことかするか普通、変態だろ保健医」

「・・・てめぇは」



今の言葉はちょっと怒ったらしい
そんな様子に対する俺はニヤリと余裕の笑みを浮かべて



「負けましたって言えばこういう状況になったこと、許してあげないでもないけど」

「・・・大人をからかうと痛い目に遭うぞ、マセガキ」



保健医も俺と同じく余裕ぶった笑みを見せる
双方、譲る気はないらしい
保健医は聴診器を外すと白衣のポケットに入れて、その白衣も地面に脱ぎ捨てた
白衣と上着
お互い、一枚だけ服を脱いだ事になる

痛い目に遭う、なんて脅し口調に引っかかる馬鹿はいない

保健医だって自分の意地で進めていることぐらい丸解りなのだから
絶対に折れるのは保健医の方だ
立場も教職で、俺のように男を広い意味で受け入れる人種でもない純日本人なのだ
俺の横に腰を下ろしていた保健医は靴を脱ぐと本格的に俺の上に乗り上げてきて
俺の上履きもついでとばかりに地面に落とす
そしてもう一度俺に向き直って顔の左右に肘をついて顔を近づけてきた

無理な余裕を見せて結局玉砕するんだ

そう思っているにも関わらず俺の首筋に顔を埋めてきて
頬にヘッドホンが当たる



「・・・ヘッドホンぐらい取れよ」

「・・・やせ我慢ならこの辺で止めとけよ?」

「冗談、泣いて謝るのはそっちの方だろ?」



お互いまだまだ笑みを浮かべている
しかし相手はわざとヘッドホンをしたまま、その存在を強調させるかのように俺の頬にぶつけたのだ
そして今ならまだ許してやるぞと言わんばかりの表情

誰が降りてなどやるものか

俺は保健医の意地に付き合ってやっているつもりで
続きを促すようにワイシャツ越しに保健医の胸板に手を置く



「・・・」



そんな俺の行動に一瞬だけ無表情になった保健医に俺は勝利したような笑みを見せて
しかし俺の目に視線を合わせなかった保健医はヘッドホンと髪留めを外して
俺の頭上の棚にコトリと置いた
纏められていた髪が解けて、天井をバックに俺の目の前で揺れている
そんな光景に少しばかり魅入っているとまたも憎たらしい笑みを浮かべる保健医



「なんだ、滅多に見れない俺の姿に見惚れたか」

「良くありがちな台詞、悪いけどギャップのギの字も見えねー」



ギャップを言うなら雅紀が一番凄いギャップを持っている、と思考が逸れて
中途半端に開いていたワイシャツのボタンを外す感触に保健医に視線を戻せば
やはり読まれていたのか
保健医はまた俺の首筋に顔を隠して



「何を考えてる」

「勿論、保健医以外のほかの奴の事」



至極当然にそう返せばまたも一瞬動きを止めて
少し間を置いてから返事を返してきた保健医



「・・・俺の腕の中で他の奴のことを考えてるのか、とんだ子悪魔だな」

「今時小悪魔って・・・保健医って意外と言語録古いんだな」

「ほっとけ」



そう言うと同時に俺の顔にびろんと垂れかかる保健医のタイ
見事に顔にかかったタイを引っ張って保健医の顔を目の前に引き寄せる



「これ邪魔」

「・・・解けるだろ、

「・・・ったくしょうがねぇな」



言われた通りに元々緩かったタイを解こうと両手を持っていけば
その手を包み込むように目の前で握り締められて
視線を合わせればやはり意地の悪い笑みを浮かべている保健医



「これを解いたら・・・本当に泣いても喚いても止めねーぞ?」

「その脅し文句さっきも聞いた、そっちこそ身を引くなら今の内だっての」

「・・・」



俺は鼻歌まじりに目の前のタイを解きにかかって
しゅっと音を立ててタイを解いて、そのまま地面に落とした

瞬間



「んっ!??」



突然目の前が真っ暗になって柔らかい何かに唇を塞がれてしまった
顎を両手でがっちりと固定されて無理矢理斜め上を向かされる
次にするりと入り込んできたものが俺の歯列を割る



「んっ!ぅん・・・!」



突然の事に抗議しようと両手を突っ張って保健医を引き剥がそうとして
その突っ張った腕は簡単に捉えられてベッドに押し付けられた
その間も容赦なく口内を蹂躙する保健医の舌

(嘘・・・!?)

これが俺を降ろす為の行為だとしても

長すぎる



「はっん・・・っ」



激しい口付けに口から漏れる息に混ざって溢れる唾液
それが唇の隙間から如何わしい水音を生む
何かが頬を伝って枕に向かう感触、短い水音は何度も何度も耳に響いて

これも保健医の罠だ、と思い当たった

どうせ一度は軽いキスをした相手だ
わざと激しく見せて俺に動揺させる気なんだ、と思うと甘んじてその口付けに応じた
保健医もそれに気がついたのか激しく攻めるような口付けを徐々に柔らかいものに変えて
お互いに角度を変えながら何度も唇を貪っていた



「・・・」

「・・・ふぅ・・・」



いつの間にか息を乱すほど長い時間キスの攻防を繰り広げていた俺と保健医は
どちらともつかないタイミングでキスを終えると俺はまだまだ大丈夫だと言わんばかりに
俺の方から離れ際に軽く吸い付くようなキスをして小さく息をつく
その様子に保健医は俺の鎖骨に顔を沈めて表情が見えなくなってしまった



「・・・ ・・・ぃ・・・」

「ん?なんか言ったか保健医、あ、もしや降参・・・」



降参だろ?と言おうとしてニンマリとした表情を見せるが
俺の斜め下に顔を伏せている保健医はハッキリと否定してきた



「・・・泣いても喚いても止めないっつっただろうが」

「はぁ?まだそんなやせ我慢してんのか?
もういい加減保健医の意地っ張りには付き合いきれないんだけど」

「・・・やせ我慢?」



無表情で俺の言葉を復唱する保健医
まともな返事を返そうとしない保健医に痺れを切らした俺は
半ば投げやり調に両手を上げて降参のポーズをとった



「・・・だーもう解ったよ!俺が悪う御座いました!!
保健医の方が大人だよ!・・・これでいいんだろ?・・・ったくマジ付き合いきれねー」



俺の言葉に固まってしまった保健医の下から這い出ると地面に落ちていた制服を拾う
全く、このまま付き合っていたら唯の意地の張り合いだ
軽いノリでのキスなら別にかまわないのだが毎度あの様な濃厚なキスをされたら
流石の俺でも溜まったものではない
頑固な点では保健医に負ける、と思って「もういいや」と話を切り上げたのだ

シャツの前を整えて、下に転がっていたサングラスを取ると胸元にかけて
タイを首にかけて上着を着込む

ベッドの上にははぁ、とため息をついて前髪をかき上げている保健医の姿
俺と視線が合うと、とことん呆れた口調で



、今度こんなことしやがったら・・・本当にお仕置きだからな」

「そん時は体罰で訴えさせていただきますのでご安心を」



憎まれ口を叩いて、保健室の扉に向かった
廊下に出て扉を閉めた瞬間、一気に力が抜けて
その場に崩れ落ちそうになってジェイに受け止められる



「大丈夫ですか様、中で何を?」

「いや・・・そっか、俺・・・実は結構力入ってたんだな・・・」



はは、と苦笑い気味に渇いた声を出して
何故気付かない内にこんなにも緊張していたのか、不思議に思って首を傾げていた








無意識に保健医の本気を感じ取っちゃった主人公の負け