乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 31









「・・・あれ?あれって鷹士さんじゃない?」

「あ、ホントだ、マンションの前で何やってるんだろうな」



ミーンミーンと蝉独特の鳴き声が聞こえる炎天下の中
たまたま昼間、学校の部活帰りで会った深水とマンションの通りを歩きながら
目的のマンションの前に見知った人物が立ち尽くしているのを見つけて
しかしその人物の珍しい姿に思わず注視してしまう



始めてみる鷹士さんの黒のスーツ姿



熱い中よくあんな長袖長ズボンの格好で居るものだ、と思って
しかもマンションを見上げたまま微動だにしない
いつもと雰囲気が違うその姿に、俺と深水は歩く足を止める事無く
目的地がマンションなものだから必然的にその珍しい姿をした鷹士さんに歩み寄ることになる
相変わらずの整った横顔を見るがやはりどこか雰囲気が違う

深水は鷹士さんが何故あんな所に突っ立っているのか不思議に思ったのか
まだ距離のあるマンションの前に立つ鷹士さんに大声で呼びかけた



「鷹士さーん!何してるんですかー?」



しかしこの声量だと十分に聞こえるはずなのに鷹士さんは見向きもしない
依然、その横顔はマンションを見上げたまま動く事は無く
深水は演劇部に入っていて声量もかなりあるはずなのにそれでも気が付かないとは、と
首を傾げつつ深水と顔を見合わせた

深水はその一回で呼びかけるのを止めて、鷹士さんに歩み寄るまでとりあえず歩いた

しかし

お互いの顔がしっかり確認できる距離まで来た時点で鷹士さんが俺たち二人に気付いたのか
顔を此方に向けた
それと同時に深水ももう一度声をかける



「鷹士さん、マンションの点検ですか?」



しかしまたも鷹士さんからの返答は無い
黒のスーツの背後に何か見えた気がしたのだが気のせいだろうか
鷹士さんは無表情で俺たちの様子を窺うように視線を向けている
ますますなんだろうかと疑問を持って深水と二人で鷹士さんの傍まで歩み寄って

そこでやっと気が付いた

身長が物凄く高くなっている気がするのは気のせいだろうか
そして

良く似てはいるが、瞳の色で別人だということが判明する

深い青色の瞳をした黒のスーツ姿の男は鷹士さんではなかった
しかもスーツの背後から見えていたのは鷹士さんより明るい茶髪の髪
後ろで一纏めにされていて肩甲骨まで伸びているそれは明らかに付け毛ではないことも一目で分かった
しかも傍に寄ったことで鷹士さんよりかなり身長が高いことも判明



「・・・鷹士さん、じゃないの?え?別人?」

「・・・みたいだな、アンタ、このマンションの前で何やってるんだ」



それにしても本当に鷹士さんと良く似ている
しかし似ているからといって彼が何の目的で此処に居るかが問題だ
また先輩の熱狂的なファンの場合は警戒しないといけない

俺の睨みを無表情で視界に収めている鷹士さんに良く似た男は
呟く様に声を発した



「はじめまして、ワタシはケビン
鷹士、聞く
の兄、、あなた知り合い」



言葉使いやアクセントで完全に日本人では無いことが解った
しかも完全にカタコトだ
即興で単語を覚えた感じが否めないが訊ねるように首を傾げるケビンと名乗った人物に
とりあえず返事は返してみる



「・・・先輩とは知り合いスけど、アンタは?」

「センパイ・・・?センパイ、なんですか?シリ、アイス
尻?アイス、食べ物、尻?」



「・・・、知り合い、アナタ、誰?」



颯大も同じくカタコトとジェスチャーで解りやすく言葉を返せば目の前の長身男は
ああ、と言った感じに表情を明るくして



「ワタシ、ボディーガード、コードネームK」



長身男の言葉に
『 ボディガード 』 には似つかわしくないほんわかした雰囲気に
隣に居た深水も俺と同じく口を開けたまま呆けたのだった










「ぁあ?」



蒸し暑い中、気晴らしに外に出ていた俺は
何時ものように斜め後ろにジェイを引き連れて散歩をしていると
マンションの前に三つの人影を見つけて
咄嗟にジェイが俺の前に出て様子を窺う
しかし



「ああ、あの明るい緑の髪は颯大だよ」



そう告げて少しばかり急ぎ足でその三人に近づいてみた
近づくに連れてもう一人が剣之助、そしてもう1人の身長が突飛出ていることに気付いた
その突飛でた身長の人物を注視して歩いていた足が自然と止まる



「・・・ケビン・・・?」



呟くように名前を口にしたはずなのに
まるでそれが聞こえたかのように身長の高い人物は俺の方に顔を向けて
颯大と剣之助の間から出てくるように二人を押しのけて
棒立ちになっている俺に向かって走り寄ってきた



!!」



嬉しそうな声を発して俺の傍まで来ると間を置かずして俺の体を抱きしめて
ボディガードであるジェイは俺に抱きついてきた人物と思いっきり顔見知りの為
その男の行動を諌めるようなことはせず、斜め後ろからサングラス越しに見つめる

抱きつかれた所為で何時もつけている派手なサングラスがよれて
それに気が付いた男は自然な動作でサングラスを取り払うと俺の両頬を包み込んで
至近距離から見つめてきた

俺はまだ信じられない表情で目の前に迫っている顔を見つめた
そしてもう一度その男の名前を口にする



「・・・ケビ ン?」

・・・ヤット、会えた」



ジェイより言葉足らずな発音で本当に嬉しそうに微笑むとまた俺を抱きしめてきた
・・・というか
なんでケビンがこんな所に?
そんな疑問をジェイが感じ取ったのかタイミングよく



「・・・最近あの発作が出ているようでしたので
真に勝手ながらケビンを呼び寄せました」

「・・・いや、でも・・・なんか仕事の途中とか前に言ってなかったか?
確か不穏分子の制圧だとか」


「時間、のしかったので少シ、痛い『びょうういん』ニ、お迎えしました」



そんなケビンの言葉に一瞬呆気に取られた俺は次に大笑いをしてしまう
俺の反応に吃驚した表情を見せたケビン
今のケビンの言葉を通訳するようにジェイが正しく告げてくれる



「ケビンは 『 早く様に会いたかったので非合法な手段で不穏分子を制圧して飛んできた 』
と、言いたいのだと思います」

「うんうん解ってる!それにしてもジェイもそうだけどケビンも日本語覚えるの早いなー!」



そこでやっとケビンの背中に腕を回そうとして



先輩、知り合いッスか」



この頃避けられていた人物の声が聞こえてケビンを横に避けるとその背後に顔を覗かせる
そこには興味津々の颯大の表情と
無表情で俺を見据える剣之助



「た、橘・・・久しぶりだな」

「久しぶりッス、誰ッスかその人」

「ああ、ジェイと同じで俺専属のボディガードのケビンだ
ケビン、この二人は俺の後輩だ、覚えておいてくれよ」



ケビンを紹介すると同時に颯大と剣之助のことも紹介しておく
しかし二人に手を促してケビンに振り返れば、ケビンは触れていた手をギュっと握って
颯大と剣之助から引き離すように俺を引き寄せると後輩の二人に睨むような視線を向ける
後輩二人に険悪な表情を向けるケビンに俺は戸惑って



「け、ケビン?こいつらは俺の友達だから大丈夫だって・・・」



そう告げても聞く耳持たないかのように更に引き寄せた
肩を抱いて俺の顔を自分の胸に押し付けるようにするが俺はその行動の意味がわからなくて
ぼふっと黒のスーツに埋まっていた顔を即座に上げてケビンに抗議の声を上げた



「K、こいつらは友達だって!」

「嘘でス」

「本当だっつーの!」

「・・・」



そう何度告げてもケビンは俺を放そうとする気配はない
しかし二人に向けていた視線を斜め下の俺に向けると心配そうな表情で俺を見つめてきた
そっと俺の頬に触れるとまるで何かを確かめるようにさらりと頬を撫ぜる



「・・・様、体調は大丈夫ですか」

「あ」



ジェイの言葉に思い当たる事があって思わず剣之助に視線を向けて
そうか、常に俺の体温に気を使っていたケビンだからこそ少しの変化でも解ってしまう
俺の発作の原因も知っている二人だからこそ
特にケビンは初対面の二人に警戒の目を向けたんだ
そこまで解って「平気だから」と告げると颯大と剣之助に向き直った



「先輩って凄いねーまだまだこれからSPって増えそう!」

「いや、専属のSPはこの二人だけだからこれ以上は増えねーよ」

「ええ〜そうなんだ、でもそのケビンさんは新しくマンションに住むんでしょ?」

「・・・に、なるんだろうなぁ」



俺もその辺りはまだ解らないので答えを促すようにケビンに視線を向ける
まだ早口の日本語に慣れていないらしいケビンは首を傾げるが
ジェイが後ろから変わりに答えてくれた



「Kも私と同じくマンションに移住します
様が日本にいる間は常に共にと社長から言い付かっております」

「あ、そぅ・・・こっそり帰国できたと思ってたのは俺だけだった訳ね」

「いえ、我々も最初は帰国など知りもしなかったこと
日本のメディアが騒いでくれたお陰で所在を知る事が出来たのですよ」

「そうか、で?
そのタレコミした奴は解ったのか?」

「それが・・・」



ジェイが僅かに表情を顰める

その瞬間





から離れろ!!」





怒号と共に俺の体は一気に横に揺れていた