乙女的恋革命ラブレボ
花一匁 ―はないちもんめ― 32
最初は
がマンションに帰ってくる姿を見つけてベランダの窓から見ていたのだが
マンションを見上げていた男がに駆け寄るのが見えて
そしてを抱き寄せたのを見て
気が付けば部屋を飛び出していた
「・・・た、鷹士?」
ケビンの腕の中から俺を引っ張り出して
俺を背後に隠すように前に立ったのは見知った人物だった
まるで慌ててマンションから出てきたかのような服の乱れようと
僅かに弾んでいる呼吸
そして何より履いている靴がつっかけとはどういうことだろうか
突然の鷹士の登場と行動に、しかしそれ以上に何かに驚いたようなケビンの表情
静まり返る空間
しかしその雰囲気を打ち破ったのが颯大の明るい声だった
「うわー!すっごく良く似てる!うりふたつってこのことだね剣之助!」
「あ、ああ・・・スゲー似てる・・・」
そんな二人の言葉に何が似ているのかと甲斐甲斐しく颯大を見れば
ケビンと鷹士を交互に見やる姿が目に入る
「似てるって・・・鷹士とケビンが、か?」
「うん!鏡みたい・・・って、先輩気付かなかったの〜!?
こんなに似てるのに!!」
そんな言葉に俺も鷹士の背中から前に出て二人の顔を交互に見比べる
本人同士もお互いの顔の作りに驚いたのか、唖然とした表情で互いを見ていた
目の前で見比べてみるがしかし颯大が言うほどそっくりとは思えない
この二人の一体何処が似ているのかと首を傾げて
「別に・・・全然似てないと思うんだけど」
そう告げれば
颯大と剣之助は信じられないという表情で否定してきた
「嘘!?これで全然似て無いとかどこみて言ってるの先輩!」
「正に鏡じゃないスかこの二人」
「うわー、双子みたい・・・」
二人はそう言うが俺にはどうしても似ているようには見えない
もう一度鷹士を見れば、最初は驚いた表情を見せた顔も
また鋭く睨みつけるような厳しい表情に変わっていた
俺の腕をつかむと鷹士は俺を引き寄せて
「・・・ボディガードだかなんだか知りませんけど
気安くに触るようなことはしないで下さい」
最初にジェイに会ったときと同じ様に警戒心丸出しで対応する鷹士
全く、俺やヒトミに関することだとガラリと人が変わるから始末に終えない
そんな修羅場のような空気に居心地の悪さを感じたのか、颯大と剣之助は
俺に「じゃあ僕たち・・・マンションに帰ってるね」と一言断って、
「先輩!また後で事後状況教えてねー」と興味津々の視線で言われてしまう
それから二人は先にマンションの中に入っていった
あの二人が物凄く似ていると言うのだから
しかもそれが俺のSPだとすれば尚更、どういう状況になるのか
興味が沸くのも解らなくは無い
俺もこんな往来の・・・激しいわけではないが外で言い合うことでもないだろうと思って
マスコミや報道陣に見られる前にマンションの中に促した
ジェイも今はマンションで暮らしているからケビンも同じくマンションで暮らすことになるのだろう
しかし明らかにジェイに対して良い印象を持っていない現管理人の鷹士は
ジェイのマンション入居の時も渋い表情をしていたのだ
きっと今回のケビンの入居も鷹士は良い顔をしないことだろう
そんなことを考えていると案の定、日本語の達者なジェイが話を切り出す
「鷹士さん、彼は私と同じ、イギリスで様のSPをしていたケビンと言う者です
今回事務所から正式に依頼を受けて日本に来たのですが・・・
SPは原則、専属である様の傍に控えるものですがその旨は私の入居の時にお話したと思います
ケビンも同様、此処に入居の手続きをしたいのです」
「・・・」
やはり思ったとおり渋い表情の鷹士
一体俺のSPの何が気に入らないと言うのか
しかし結局は承諾せざる終えない、とジェイの時の事で解っているのか
今回はそれほど渋る事無く入居手続きを済ませてくれた
今は俺の傍に居る必要が無い、とSP二人は部屋の鍵を持って
ジェイは日本に関しての説明などをするためにケビンと共に宛がわれた部屋に向かった
残った俺と鷹士はとりあえず自分たちが共通で使っている部屋に足を向けて
双方無言のまま部屋までついて、玄関を上がる
その間、無言の鷹士の背中をちらちらと見ながら俺も眉に皺を寄せる
(鷹士・・・怒ってる・・・?)
俺やヒトミの前でマイナスな表情など滅多に見せない鷹士の雰囲気は直に解った
・・・俺も自分の部屋に戻ったほうが良かっただろうか、と思い直して
まだ玄関に居たことをいいことに、声をかけ辛いこともあってさっさと部屋に戻ろう、と
無言で身を翻して今し方閉めた扉を開けようとドアノブに手をかけた所だった
「、もう、部屋に帰るのか」
そんな呼びかけに振り向いて室内に目を向けると
じっと俺を見つめる視線とかち合う
その視線に愁いが混ざっている様にも感じて
無意識にドアノブから手が離れていた
気まずい空気が流れるのが嫌で、何でもいいから、と話を繋げる為に疑問に思ったことを口に出す
「・・・鷹士さ、俺のSPの入居に良い顔しなかったけど、何か気に入らない事でもあるのか?」
そんな俺の問いかけに突然きょとんと間の抜けた顔になると
「気に入らないこと・・・?」と自問自答するように黙り込んで視線を彷徨わせながら顎に手を当てる
典型的な悩みのポーズを横目に
俺は靴を脱いで玄関から上がるとキッチンに向かった
何かを飲みたくなって、ただ冷蔵庫に用事があるだけだったのだが
「鷹士、なんか飲むか?」
「え?あ、じゃあ兄ちゃんは麦茶を・・・」
「最近蒸し暑いもんなー、ホラ」
「ああ、有り難う」
八月と言うだけはある
ヒトミはというとなにやら友達と旅行に行ったらしく
鷹士が保護者として付き添う予定だったらしいのだが大学の関係で行けなくなって
変わりに保健医が付いて行ったらしい
よって今日は俺と鷹士の二人きり生活が暫く続く
俺は鷹士に氷の入った麦茶を渡すと俺も同じくコップに麦茶を注いでそれを一気飲みした
「あぁ〜・・・極楽・・・」
部屋の中は冷房が効いていなくて開け放たれた窓から涼しい風が入り込んできていた
全く、健康に悪いからとかで冷房をつけたがらない鷹士には微妙にそういった意味での価値観の違いを
感じさせられるが昔からのことなので今更小言を言うつもりにもならなかった
しかし熱い
先程黒のスーツを涼しげに着こなしていたケビンに賛美を送りたくなった
リビングに移動してうちわを手に取ると仰ぎつつ
汗で張り付いたTシャツを脱ぎたい気分に駆られるが鷹士が居る前では脱げない
早く自室に切り上げる為に鷹士に向き直りつつソファに腰を掛けると
鷹士もいつかのように俺の隣に腰を掛けて持っていたコップをテーブルの上に置く
「・・・なぁ、本当にあの二人は・・・信用できるのか?」
「当たり前だろ?鷹士と同じぐらい・・・もしかしたらそれ以上に一緒に居るかもしれないのに・・・」
「そ、そうか・・・兄ちゃんは・・・ジェイさんだけでも十分ボディガードは出来ると思うんだけどなぁ」
「前にも言っただろ?ジェイは肉体的ボディガードで
ケビンは精神的ボディガードだって」
「・・・に、肉体的ボディガードは無理かもしれないけど精神的なものだったら
兄ちゃん、なんでもお前の力になるつもりだからな?」
「・・・は?」
悩むように視線を彷徨わせながら訳の解らない事を言い始める鷹士
「お前の熱狂的ファンをジェイさんのように静めることは難しいかもしれないけど
精神面でだけでもお前の力になりたいから」だの
「身内だからこそ、それこそ男同士だし相談できることもあるだろうから」とか
ボソボソ言いながらもハッキリとしたことを口にしない鷹士
そんな煮え切らない態度に暑さも手伝ってイライラしはじめる俺
「・・・つまり何が言いたいんだよ」
「う・・・その、な?だから・・・」
「・・・」
「あの二人ばっかりじゃなくて、たまには兄ちゃんにも頼ってほしいんだ」
「・・・あーはいはい、鷹士もさっさと弟妹離れしろよー」
つまり自分に頼られて無いとか思えてしまうからSPの入居に渋い表情をしていたと言うらしい
またいつものブラコンか、と鷹士の台詞の途中でうちわを仰ぐ手に力を込めて
どうでもいいと言うように適当に相槌で返す
全くこの兄貴はもしかして年寄りになってもこの調子ではなかろうか
そう思うとやはり鷹士の今後が心配になってしまった
「鷹士さぁ・・・そろそろいい年なんだし、彼女とか結婚とか考えろよ」
「えええ!?と、突然何を言い出すんだ!?
俺はな!?お前とヒトミが居ればなぁーんにもっ要らないんだぞ!!?」
「だから弟妹離れしろっつの・・・そんなだから女もつかないんだろ?」
「・・・とヒトミは俺にとって大切な存在なんだ
お前たちが笑っていると嬉しいし、喜んでいるとそれだけで満たされるんだよ」
「・・・」
ブラコンも此処まで来ると危ないというかなんというか・・・
鷹士の言葉にあきれ果ててため息をつきながらソファから腰を上げて
もう付き合ってられん、と自室に戻る為に玄関に向かう
しかし腰を上げてソファを回り込んで玄関に向かおうとした時点で手首をつかまれて
結構な力で引き戻された為、俺は腰を上げたソファにしりもちをついて驚きに表情を変える
「いきなり引っ張るなよ!」
突然の鷹士の行動に少しばかり苛々していた気分に拍車が掛かる
つかまれた手首をふり解いてキッと鷹士を睨むと相手は反射的にという風に謝罪の言葉を口にした
「あ、悪い・・・つい・・・」
「あーもー、鷹士の心配は良く解ったから、ジェイもケビンも俺にとっては絶対的信頼があるの!
あの二人については鷹士が心配するようなことなんて絶対に無いから
それに鷹士に信用が無いわけでも信頼して無いわけでも無いからくだらない所まで気を回さなくていいの
解ったか!!」
「・・・あぁ・・・」
「・・・はぁ」
ここまで豪語してもまだ煮え切らない表情で俺を見つめる一組の視線
そして頼りない返事の仕方とそんな表情を見た俺も思わずため息をついていた
とりあえず暑い
さっさと自室のエアコンで快適に涼しみたいのだが
「鷹士、もう部屋に帰ってもいいか?暑くて耐えらんないんだけど」
「え?ああ、じゃあエアコン入れようか」
「・・・身体に良く無いとか言ってつけたがらないくせに珍しい」
そそくさと立ち上がって窓を閉めるとエアコンのリモコンを入れる姿にボソリと呟く
そのままぼーっと見ているとエアコンのリモコンをテーブルに置いた鷹士は
そうだ、と何かを思いついたように笑顔を俺に向けてきた
「何か涼しい物でも食べるか?昼食まだだろ?」
「お、それ賛成」
鷹士の提案に俺は嬉々として頷く
するとすぐさま「直出来るからな」と告げた鷹士は台所に向かっていった
その間俺は上体を捻って鷹士の行動を目で追いながらあることを思い出す
(そういえば今日って鷹士の誕生日・・・)
面倒な事を思い出したものだ、と密かに眉を顰めたのは言うまでも無い