乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 33









思い出したからには気になるのは当たり前で
今日の日付は八月九日

鷹士の誕生日

俺はソファに正しく座りなおすと膝に肘をついて顎を手で固定すると
うーん、と唸りながら考える

悩む事数分
長い間外国暮らしだった俺には鷹士が欲しい物等見当が付くはずもなく
結果、本人に尋ねたほうが一番早いだろうと踏んで
そこへ丁度夏の定番ともいえる冷麺をおぼんに乗せて持ってきた鷹士に問いかけた
鷹士はソファの目の前に配置している低いテーブルにお盆を置く



「・・・なぁ鷹士兄」

「ん?」

「最近何か欲しいものとかある?」

「欲しいもの?う〜ん・・・なんだ突然?は何か欲しいものがあるのか?」

「いや、聞いてるのは俺だから
質問に質問で返すと嫌われるぞ?」

「え!?わ、悪い、兄ちゃんの事嫌いだとか言わないでくれよ・・・!?」

「・・・とりあえず欲しいものを言え」



これだとまた話が脱線するだろうと即座に読んで強制的に話を引き戻す
俺の言葉に再度考え込んだ鷹士はチラリと俺に視線を向けるが
その視線に首を傾げると逸らすように自然な動作で視線を外して
考える表情を見せつつ冷麺を俺の目の前に置くと自分の分も俺の隣においてソファに腰掛けた

やっと涼しくなってきたリビングに持っていた団扇を置くと
目の前に置かれた冷麺の器を口元に持ってきて添えられていた箸を使って麺をすくい出す



「う〜ん」



鷹士も俺と同じく冷麺を啜りながらシンキングタイムと言わんばかりに唸る
この様子だと暫く結論に時間が掛かりそうだ、と踏んでとりあえず美味しい冷麺を堪能する事にした
しかし思ったより待たなくても良かったようだ
鷹士は思いついたように「あぁ!」と嬉しそうに表情を明るくして冷麺の入ったうつわを置くと
俺に向き直った
俺も丁度飲み物を口にしようと器を置いた所で鷹士に顔を向ける

俺と顔を向き合わせた時点で欲しいものを口にしようとしていた鷹士の表情は崩れて
更に幸せそうに歪む
そんな表情の変化に内心クエスチョンマークを浮かべつつ鷹士の顔を見張ると
鷹士は含み笑いをしながら俺の顔に手を差し出してきた



、ネギがついてる」



「・・・っ」



そう言って俺の唇の端に触れてネギを摘み取るとパクリと自分の口へ
ただそれだけのことだったのに

唇の端に鷹士の指先が触れた瞬間、何か変な感じがした

俺は妙に気恥ずかしく感じて不自然に顔を逸らすと
顔を隠すようにまた冷麺に集中する



「・・・で、欲しいものは?」

「・・・ ・・・やっぱりは可愛いなぁ」

「欲しい物!!」



ヒトミに何時も言っている言葉をのほほんと口にする兄
今し方の俺の行動でそう思ったのだろう
さっき以上にだらしない表情で俺を見ているのだろうと容易に想像がついて
(プレゼントやらねぇぞ!!)
と、心の中で叫びつつ多少声を荒げる
俺の言葉にカラカラと笑いつつ答える鷹士



「欲しいものなら前にも言ったと思うんだけどな」

「・・・悪ぃけど・・・覚えがない」



鷹士の意外な言葉に一瞬呆けた俺は暫し考え込んで申し訳無さそうに表情を歪める
しかし鷹士は気にした風もなく明るい表情のままだ
その表情に疑問を持ちつつ、やはり思い当たらなくて首を傾げる



「覚えがないのか?言ったはずだぞ?
・・・二回も」

「二回も?」





「・・・が・・・欲しい」





突然真顔になって答える鷹士の表情に
俺は目を見開いて鷹士を凝視してしまった

何故

こんなにも暑いんだろう

エアコンがついてるはずなのに、と思考の片隅で思うが大半は思考が止まったままだった
耳栓をしているわけでも、耳を塞いでるわけでもないのに
何故か自分の心臓の音が聞こえて、その鼓動も異常に早い


ベランダについていた風鈴が窓に音を遮られているのに鋭い音を放つ
どれだけ時間が経ったのか判らないほど、そのまま俺は鷹士を見つめていた
しかし



「・・・な〜んて
兄ちゃんの欲しいものはとヒトミの笑顔だけだから、な?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

に誕生日を覚えてもらってただけでも兄ちゃんは嬉しいぞ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

も欲しい物があるなら兄ちゃんに言えよ?
誕生日と言わず何時でも買ってやるからな!」

「・・・ ・・・ ・・・」



こっ・・・

こいつやっぱり殺してもいいだろうか・・・



冷麺の入ったうつわを持つ手に力が入ってしまうのは否めない
今なら

今なら撲殺できる

(つまりは一時でも冗談で俺の心を弄んだ、とそういう訳だな?
そうなんだなこのくそ兄貴・・・!!!)

とばかりに恨みがましい視線を送ろうとして、そこでヒクついた口元を押さえつつ
湧き上がる怒りを抑えつつ、ここぞとばかりに冷静に思考を持っていって
目には目を、という結論に至った

(くそっ・・・相手が保健医とかだったら即座に思いついた対応だっつーのに)

一瞬でも間に受けてどぎまぎした自分に舌打ちをして
器をわざと音をたててテーブルに置いたのをスイッチ代わりに
持ち直して鷹士に余裕を笑み・・・俗に言う営業用の子悪魔的笑顔を見せると
隣に座る鷹士に顔を寄せた
そして囁くように耳元で告げる



「へぇ、俺の欲しい物なんでもくれるんだ、お兄ちゃん」

「・・・あ、あぁ・・・な、なんでもいいぞ?」

「・・・」



(俺を一時でも弄んだ事、後悔しやがれブラコン兄貴が・・・!!)
内心毒を吐き散らしつつ返答に鷹士の見えない耳元でニヤリと口を歪ませる
俺の態度に多少目を白黒させつつもまだ我を保っている鷹士
その態度を更に混乱させる為の言葉を耳元で口にした



「お兄ちゃんの貞操、 俺 に ち ょ ー だ い 」

「な!?なななななななな・・・っっ!!!!????」



いかにも弾んだ口調で告げれば案の定と言わんばかりに慌てて俺から身を離す鷹士
ふふふ、と含み笑いをしつつ、今持てる実力全てを注ぎ込むと腹を括った俺は
美を象徴する人形へと姿を変える
俺から身を離してソファの端につっかかった鷹士は膝を抱えるように小さくなる
まだまだ俺の報復は終わらない
ポイントを押さえた動作で鷹士ににじり寄ると

そっと手で鷹士の膝を割って、あくまでゆっくりした動作で鷹士の膝の間に上半身を割り込ませる
更に半分覆いかぶさるように鷹士の両脇腹の直隣に両手をついて
わざと重なった上体を鷹士に預けてピッタリと身体を密着させる
無理、とプリントされているシャツの部分に撫でるように手を置くと
更に一言



「俺さ、処女だから優しくしてね?」



やりすぎといわんばかりの猫なで声で上目ずかいに鷹士を見つめる
鷹士は、というと俺の最後の言葉にしょ、しょ、しょしょしょ、等とドモって
多分俺の言葉に突っ込みを入れたいのだろうが
完全にテンパった反応を見せた

勿論顔も真っ赤

表情は怒っているような困っているようなそんな複雑な表情

両腕はというと恐れからか、縫いつけられるようにソファに張り付いている

そんな様子に俺はすぐさま真顔に戻って
報復は終わったとばかりに身体を離すと食べかけの冷麺を啜り始めた
(ざまみろ)
チラリと麺を啜りつつ、鷹士の様子を見れば
視線が合った時点で鷹士は疑問の声を上げる



「・・・?」

「冗談だよ、さっきの仕返し
今度体の悪い冗談言いやがったら今みたいのじゃ済まないからな」

「・・・悪かった」

「報復できたからこっちの気は済んだ、もぅいいよ」



俺の言葉に一気に肩を落とした様子に、相当身体に力が入っていたらしい鷹士
大きく呼吸をしてソファに座りなおすと鷹士も麺を口にし始めた
しかし少しの間を置いて鷹士は俺に向き直る



「それにしてもやっぱりは凄いな
一気に雰囲気が変わったから吃驚したよ」

「んー?アレは営業用だからな、一応プロだし見せ方を心得てても不思議じゃないだろ?」

「あれが営業用!?・・・やっぱり自慢の弟だなぁあそこまで変われるなんて
兄ちゃん本当にドキドキしたんだぞー?」

「・・・」

「あれじゃあ男のファンがついてもおかしくないよな!
さっきのも凄く綺麗だったし、誘い方も超一流だな!!」

「・・・」

「まぁでもだからといって!変な虫をつけるのは許さないぞ!?
兄ちゃんがの一番のファンで兄ちゃんにとって大切な弟なんだからな!」



この男

無意識にしても恥かしい台詞をストレートに言いすぎだ

大体「誘い方」ってなんだ「誘い方」って
とりあえず熱く語る兄に適当相槌を打って冷麺を食す

まぁでも折角の誕生日だ
たまには俺からも何か贈り物でもしておこう、と考えて
後でジェイを連れて買い物に行くことに決めた











「・・・鷹士さん・・・?」



廊下でばったり居合わせたマンションの管理人と思しき人物に出会うが

自分より更に高い身長
そしてありえない黒スーツの姿
短時間ではありえない髪の長さ
そして別人を決定付けたのは深い青色の瞳



夕方

学校から部活を終えて帰ってきた人物もまた

第二の鷹士の存在に戸惑いの色を露にしている事など

既に鷹士の誕生日プレゼントを求めてジェイと買出しに行っていた俺が気付くはずも無かった