乙女的恋革命ラブレボ
花一匁 ―はないちもんめ― 36
俺とケビンの関係は簡潔に言えば
肉体関係まである
しかしあくまでその関係に愛があるわけではなくて
俺の持つ特殊な症状の手っ取り早い改善薬なのだ
過去の強姦未遂がキッカケで、他者とのある一定の距離を越えたら体温が急激に下がって
酷い時には意識不明で昏睡状態にまで陥る症状だ
しかしその症状はケビンの体温で抑えることが出来る
何故なのか
そんなことは俺がケビンに絶対的信頼を置いていて
ケビンもそれに応えてくれているからだ
でもそんなことは
鷹士にだけは知られたくない
「、居るか?」
ある週末
俺の部屋に鷹士が訪問してきていた
しかしその状況が宜しくない
「ちょっちょっと待ってくれ、ドア開けるなよ!」
鷹士の声がした方に向かって大きな声でそう答えると
俺の上に首裾を寛がせて覆いかぶさっていたケビンに視線を戻す
「ケビン、今日は・・・」
「はい」
言いかけた俺の言葉にふわりと微笑んで俺の上から退くとギシリとベッドを軋ませて
地面に両足をつけると緩んでいたネクタイをピシっと締め上げて
俺は素っ裸だった上半身に適当なTシャツを被せると玄関に向かう
その後ろをケビンもついてきて、ドアを開けると先にケビンを部屋から出した
突然部屋から出てきたケビンに驚きの表情を見せた鷹士は
目の前を横切って自分の部屋に戻るケビンの後姿を見つめつつ
その姿が見えなくなった時点でその視線は俺に向いた
「入れよ」
そのタイミングでそう告げて鷹士を室内に促す
部屋に脚を踏み入れた時点で鷹士は申し訳無さそうに告げてきた
「ケビンさん、来て・・・たんだな
ゴメンな?邪魔して・・・」
「ああ、気にするなって、丁度帰ろうとしてたし」
「そっか・・・」
とりあえずベッド脇に腰を下ろした鷹士は
隣のベッドの上に腰を下ろした俺を見上げて
いつもの柔らかい笑顔を見せる
「その、な?このブレスレットのお礼を言おうと思って」
「・・・また随分と遅い御礼だなー」
「色々重なってて言う機会が無かったんだ、それと・・・」
そこまで口にした鷹士が言いよどむ
何か良い辛そうに視線を泳がせて、それから間もなく話を切り出してきた
「このブレスレット・・・どこかで見たことがあると思って考えてたんだが・・・
たまたまモデルでお前がつけてたのと同じだってことに気が付いてな?
それで・・・」
「・・・」
・・・嫌な予感がする
あのブレスレットは俺がデザインしただけに覚えている事も多い
鷹士の誕生日プレゼントになりそうなものを見つけられなかったから
俺の大切にしていたブレスレットを投げて寄こしたのだが失敗だっただろうか
でも、もう日本に居る俺には必要のない存在だった
だから、本来持つはずだった鷹士に渡したのに
「その・・・雑誌のコメントに 『 大切な人の為に作った 』 とか書いてあって・・・
そんなもの俺がもらってもいいのかどうか、考えちゃったんだ」
「・・・は?」
この男
今雑誌とか口走らなかっただろうか
続けて何かを口にしようとした鷹士を素早く制して
逆に問いただす
「ちょ・・・ちょっとまて鷹士・・・今雑誌って言ったのか?」
「ん?ああ、言ったぞ?」
「それってネットとかで見たのか?」
「そんな訳ないじゃないか、ちゃんとした雑誌だぞ?」
「俺のモデル雑誌は海外でしか手に入らないはずなんだけど?」
「通販したに決まってるじゃないか、お前の載ってる雑誌は全部持ってるぞ!」
「・・・」
このブラコンはそこまでするか、と口元をヒクつかせながら隣で満面の笑みを浮かべる顔を見下ろす
しかし話が逸れたことに気が付いた鷹士はご丁寧にその雑誌を持ってきていたらしく
俺の目の前に問題の記事をバサリと開いて見せてきた
そのページには白いコートに身を包んでいる俺
腕には例の時計型ブレスレット
「・・・その雑誌、ちょっと貸せ」
ベッドサイドにケビンが忘れていったと思われるジッポを見つけて即座にそれを手にすると
鷹士にそれを差し出すように手で催促する
俺の意図に気が付いたらしい鷹士は大事そうに雑誌を抱え込んで
そして別の問題に気が付いた
「・・・片手にライターなんか持ってどうするつもりだ・・・って!!
お前なんでそんなもの持ってるんだ!?まさかまたタバコ吸ってるんじゃないだろうな!」
俺の手の中にあるものを確認した鷹士は即座に立ち上がって俺の手の中からジッポをとりあけようとする
それより雑誌の処分が先だ、と雑誌を奪い取りにかかった俺
当然の如く双方の取り合いになる
「こら!それを渡しなさい!!」
「だー!それよりその雑誌を渡せ!なんでそんなもん持ってるんだよ!!」
「大切な弟の晴れ姿だぞ!?持ってないほうがどうかしてるだろう!
とにかくそれを渡しなさい・・・!」
鷹士にジッポをとられそうになって俺もベッドから腰を上げようとして
取られないように手を頭上に上げて更に身を捩って後方に動かすと
それを取ろうとした鷹士が片手で俺の空いた片腕を捉えて
更に遠のいたジッポにもう片方の手を伸ばす
腰を上げかけた所為で体勢を崩した俺は鷹士のかけた体重に耐え切れなくなって後方に倒れこんだ
ギシっとスプリングが軋んで俺の背中は柔らかい布団に受け止められる
同時に俺に傾いていた鷹士の体も俺に覆いかぶさって
俺の手を拘束していた所為か、受け身に失敗して思いっきり俺の体の上に倒れこんできた
「うわ!?」
「・・・!」
俺の体にピッタリと密着してきた誰かの体温
背後にはベッド
つかまれたままの手首
その状況を頭で理解した途端凍ったように身動きが取れなくなる
急激に指先が冷えていく感覚に全身の力が抜けて
一気に睡魔に襲われたように意識が朦朧とし始めた
俺に倒れ掛かってきたにも関わらず
俺の手の中からジッポを奪取するとやっと起き上がる
「!兄ちゃんの目が黒い内は未成年なのに煙草は許さないからな!」
俺の真上でにこやかにそう告げる鷹士
しかし俺の顔を見た途端、鷹士は驚きに表情を歪めた
「・・・!?お、お前顔真っ青じゃないか!!大丈夫か!?」
即座に俺の額に手を当てて熱を測る鷹士を虚ろな目で見つめて
俺の肌にじかに触れたことで更に目を見開いた
「お前、なんでこんなに・・・冷たいんだ!?
寒いのか!?だから冷房は極力使うなっていっつも言ってるのに・・・!」
即座にベッドサイドにあったリモコンで冷房を切ると
まだ横たわったまま動けないで居る俺の体を抱き上げて、ちゃんとベッドに横たえてくれた
布団を肩までかけてくれるが俺の体温は戻りそうに無い
そんな俺の様子にすぐさま鷹士は身を翻して「若月先生を呼んで来る!」と言った
その鷹士の声に即座に口をついて出た言葉
「ケビン・・・」
意識が落ちる寸前での言葉だった
俺の呼びかけに表情を歪めて俺を振り返った鷹士の姿を最後に
俺の視界は真っ暗に閉ざされた