乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 38









チャリ、と

手首から聞こえてきた金属の擦れる音
その音を耳にしてゆるりと視線を向ければ視界に入るのは
がくれた綺麗な装飾の時計型ブレスレット
それを自分の眼前に手首ごと持ってきて、ぼんやり見つめる



俺はの支えにはなれない



背中の傷も、発作の事も、向こうでのことも何も話してくれなかったのがいい証拠だ

(大切な人の誕生石が沢山使われた、300万もするブレスレット・・・か・・・)

それを見つめていて出てくるのはため息ばかり
短いため息を一つついて、力なく机の上に上体を預ける
机のテーブルライトが自分の顔を照らして、その直接の光に目を細めながら
手首をずらして、また机に預けた顔の前に持ってくる
光に反射してキラキラ光る宝石

緑色の宝石の中心に赤い宝石

この紅い宝石はルビーであることは間違いないだろうと思うのだが
この緑色の石はなんと呼ばれているのだろうか
そんな疑問を抱いていると控えめなノック音が聞こえて机から顔を上げる



「はい?」

「鷹士、俺だ」

「若月先生?」



思わぬ来客に玄関に脚を運んで扉を開けばやはり若月龍太郎が立っていた
しかもなにやら神妙な面持ちだ
とりあえず部屋に迎え入れて適当な場所に座ってもらうと飲み物を用意しに行こうとして止められる



「必要ない、直済む用事で来たんだ」

「珍しいですね若月先生、どうしたんですか」

「・・・」



何をしに来たのか、と問えば口篭る先生
なにか悩んでいるような表情を見せた後、意を決したように顔を上げて俺を見つめる



のことなんだが・・・」



その言葉にドキリと心臓が跳ねる
丁度自分もの事で悩んでいたのにまだ何かあるのか、と
そう思いつつもちゃんと聞く為に先生の目の前に座って話の続きを待った



「お前・・・知ってたか?
が・・・SPのケビンって奴と肉体関係にあったって事」

「・・・は?」

「だから肉体関係」

「・・・へ?」

「・・・」





先生はなんて言ったんだ?












「に・・・肉・・・?」

「・・・あー・・・」



鷹士の反応に額を押さえて天を扇いだ

(あー・・・言うべきじゃなかったか)

そう思うものの既に言ってしまったのだから仕方が無い
鷹士はと言うと放心してどこか虚ろに視線を漂わせている
相当なショックを受けているらしく上体がゆらゆらと揺れていた
とりあえず鷹士をこっちに呼び戻す為に目の前で揺れている肩をつかむと
揺れている以上に前後に揺さぶって名前を呼んだ



「おい、鷹士、鷹士!」



余談だが俺はこいつと二人で居る時は大抵「鷹士」と呼んでいる
まぁ昔からの腐れ縁のようなものなのだが

前後に揺さぶっても思わしい反応は無く
俺は仕方なく鷹士のおでこに手をかまえて


デコピン



「・・・っっ痛―!??いっ痛いじゃないか何をするんだ行き成り!!」

「おーおー、やっと戻ってきたか」



鷹士は額を押さえて俺に抗議の口を開く
しかし俺の言葉にくしゃりと表情を歪めて俯いてしまった



「・・・」



沈んでいる

明らかに沈んでいる

こいつの周りにヒトデやアンコウが見えそうな気がするほど沈んでいる

このまま溺れ死ぬのではないかと思い、とりあえずじーっと見ているのもアレなので
自分はタバコに火を付けて一服を開始した

それから暫く
タバコがフィルタに近づきつつあった頃に鷹士は消え入るような声でボソリ、と呟いた
しかしその声が余りにも小さすぎて聞こえない
その聞き取れなかった呟きから間も置かずして
なにやら念仏か呪詛のような言葉をブツブツと呟き始めた
その呟きが気になって聞こえる位置までこっそり身体を近づけて耳を傾ける



「・・・か、そうだよな俺みたいな奴に大切だのなんだののプレゼントなんてくれるはずないしどうせきっと誰かの使い古しでの元カノとか元カレとかケビンとかケビンとかケビンとかケビン・・・ケビン・・・なんでとどうして何が原因では道を踏み外したんだよりにもよってあんな男にだまされ踏みにじられ嘲られ終いには身体まで断じて許せんああもうこうなったら俺が俺が俺が」



・・・聞かなければ良かった、と後悔しても遅いのだが
もしこれが溺愛するヒトミだったらそれこそどうなることか
犯罪に走るであろうと指摘されても本人がこの状況では否定することも出来ない

とりあえず危ない方向に思考が飛んでいるのは確かなので
無駄とは思いつつも言わないよりはマシであろうと判断して自分の見解を述べてみる



「鷹士、思うんだがな・・・
とあのSPが肉体関係にあるのは確かだとは思うが
それもの持病で致し方なくって感覚を受けたんだ
恋愛感情が在るとは思えないんだよ、おい、聞いてんのか?」

「聞いてるさ!!でも肉体関係ってのはよっぽど信頼してるからこそだろ!?
恋愛感情なんて関係ない!!俺は・・・!一番近くに居た俺が・・・!」



俺の言葉に必死の表情で言い返してきた鷹士
なるほど
兄であるにも拘らずの支えになれていない、と自己嫌悪をしてるって所か
弟想いだねぇ、と判断しかけたその時
俺の目の前で突然立ち上がった鷹士は今だ悔しそうな、怒っているような表情で両手の拳を硬く握る
突然の行動に俺は目を開いて少しばかり仰け反ると立ち上がった鷹士を見上げた



「それにあのSPなんかにが・・・か、身体を許してるなんて許せない!
あんな男に俺のをっ!」

「・・・」

「あんな・・・俺とそっくりの男が・・・を・・・なんで・・・なんで俺じゃないんだよ!!!」



鷹士がそう叫んだ瞬間、室内を妙な静寂が包み込んだ
目の前の男の叫びに、そしてその言葉の意味に暫し呆然とする俺
だってそうじゃないか
今し方の鷹士の言葉は、表情はまるで

嫉妬している男

そこまで判断して俺はじっと鷹士を見上げる
そしてゆっくりと問いかけた



「お前・・・が大切なのか?」

「当たり前だろ!なんでそんな当然のこと・・・」

「・・・抱きたいのか」

「え・・・」



そこまで訊ねてやっと鷹士は歪んだ表情を解放した
不意を突かれたかのように呆けただけなのだが
俺の言葉を理解したのか一拍置いて鷹士の顔がみるみる内に紅潮していく



「・・・え?は?・・・な、何言って・・・そんなわけ無いだろ!?」

「そうか?俺には一端に嫉妬してる男の発言と取れたんだけどな」

「そ、そんなわけ・・・俺は・・・」



明らかに動揺を見せる鷹士
その様子を僅かに険しい表情で見つめる俺
・・・内心複雑な表情である事は自分の事なのでよく分かる

(同じ穴の狢ってトコか)

と、なれば俺がこれ以上追い風を興す必要も助け舟を出す必要も無い
むしろしたくはない
しかし結果、増やしたくも無いライバルを増やした挙句に
相手に塩を送ってしまったことに変わりは無かった
そんな事に気が付いて密かに舌打ちをする
用事は終わった、とばかりにさっさと退散を決め込んだ俺は
戸惑う鷹士をそのままに部屋から出た

少しばかり乱暴に扉を閉めて
ささやかなイヤガラセの如く扉に向かって副流煙を吐き出した













「お、れは・・・を・・・」



先程の若月先生の、言葉を反復して無意識に自分の口元を覆う
(そんな馬鹿な・・・)
その指摘に反射的に否定はしたものの、それに反するかのように早鐘を打つ鼓動
顔に触れれば酷く熱い体温
(俺は・・・兄なのに・・・血も繋がってるのに・・・)
考えている事の整理が付かなくて俺は逃げるように思考を放棄した



「そ、そうだ、ヒトミに夕食作ってやらないと・・・」



壁の時計に目をやってそそくさと部屋を後にした

まだ、解らない
でもが大切である事に変わりは無くて

でもじゃあなんで
SPの事を考えるとこんなにも気分が暗くなるんだろうか
これが仮に『嫉妬』だとすれば


俺はきっと


の良い兄ではいられないんだ