乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 39









朝からの居る病院に向かおうと玄関を出た所で珍しい人物に鉢合わせした



「あ、おはようございますさん」

「時田君、おはよう」



朝から散歩をしていたらしい時田君はにっこりと笑みを見せながら
俺の隣をすり抜けてマンションに入ろうとしてふと気が付いたように足を止めた



「おや・・・さん、随分高価なものを身に着けてらっしゃるんですね」

「え?ああ、このブレスレットか」

「・・・ちょっと見せてもらっても?」

「構わないよ」



滅多に会話をしない相手だけあって、こうやって会話をする機会は数少ない
こういう時間ほど大切にしておいて管理人としても損はないだろうと思いながら
手首にはめていたブレスレットを外すと彼に渡す
それを慎重な手つきで手に取った時田君は更に驚いたように目を瞬かせた



「まさか・・・ピジョンブラッド!?
しかもこれはかなりの純度がありそうですけど・・・」

「ピジョンブラッド?」

「はい、ルビーの中でも最高級でたった3カラットの高いものでも
軽く一千万を越すものもあるんです」

「い、一千万!?」

「これは小ぶりのものですけどかなりの値がつきそうですね・・・周りのはペリドットですか
これも不純物もなく綺麗ですね・・・」

「ぺ、ペリドット?」



あまり宝石には詳しくない為、聞きなれない単語の数々に心ばかり取り乱しつつ訊ねる
時田君は気が付いたようにブレスレットを食い入るように見ていた顔を上げて俺に視線を向ける



「・・・これをさんがしていたと言う事は・・・もしかしてさんは八月生まれですか?」

「え!そ、そうだけどなんで解ったんだ?」

「ペリドットは八月の誕生石ですから
これだけペリドットが主体で装飾されているとなるとそうだろうなと思ったんですよ」

「でもじゃあその中心の赤い宝石は・・・?」

「ルビーは・・・そうですね、さんが八月生まれとなるとこれは星座石でしょう」

「星座・・・?」

「獅子座はルビーが星座石に当たるんですよ
それにしても随分縁起がいいですね、星座と誕生日の石を一緒にはめ込むなんて・・・
知っていますか?ルビーは情熱や愛の意味があるんですよ」



これほどのルビーなんて滅多に拝めませんよ、と
時田君は俺の手を取ってその手の中にしっかりとブレスレットを渡す
そのまま時田君は軽くお辞儀をしてマンションに入っていってしまった
残された俺はと言うと



「・・・」



このブレスレットの意外な事実に呆然としたまま
時田君がマンションに入ったと同時にゆっくりと手の中にあるブレスレットに視線を転じる

八月で獅子座・・・

自分に当てはまる、というのはただの偶然だろうか
雑誌の記事が脳裏を掠める


『 オリジナルのデザインのブレスレット初公開
大切な人の誕生石をふんだんに使った最高級時計型ブレスレットの気になる値段はなんと300万円 』



「大切な・・・人・・・」



は何故、俺にこのブレスレットをくれたんだろうか
自惚れでもいいと、そう思ってしまう


俺に

俺の為に作ってくれたものだと

(そう想ってもいいのかな・・・


手渡されたブレスレットをまた手首にはめると
今度こその居る病院に向かおうと脚を踏み出す
少しだけ晴れた気分とは裏腹にかろうじて雨は降っていないがどんよりと曇った空模様
そういえば昨日の夜は雨が降っていたな、と足元の水溜りを見て
自分の車が置いてあるガレージに向かった











「あ〜・・・暇」



見慣れない部屋で目を覚ました俺はそういえば病院だった、と思い返して早数十分
ケビンは昨日からずっとつきっきりで俺の傍に控えていて
俺はというとストレッチも兼ねて上体を動かしつつ先程のように独り言を呟いていた

(ったく、早く来いよ鷹士の奴・・・)

そんなことを思っていると男の医者と看護士が朝の健診に病室に入ってきた







その白衣の医者が普通の医者なら問題ないのだが



「ほっ・・・保健医ぃぃい!?」

「よぉ、元気そうだな」



なんでこいつが!と思うと同時にケビンが素早く動いて保健医の腕をつかむと後ろに捻り上げる
保健医の状態が前のめりになって保健医は苦痛に表情を歪めた



「いってててて!!!おいこら!こいつなんとかしやがれ!」

「ケビン!」



俺の呼びかけにケビンは保健医の拘束を解いて
それでも警戒しながら俺の傍に歩み寄る
保健医はつかまれた腕の方の肩をコキコキと動かしながらケビンを睨みつける



「・・・こいつ俺に恨みでもあんのかよ」

「それにしても保健医、なにしに来たんだ?見舞いか?」

「ああ、昨日ヒトミから聞いてな、ついでに朝の健診も兼ねて来てやったってわけだ」

「健診・・・って保健医が?」

「さっきお前を診た担当から引き継いでもらった」

「なっ・・・」



(つーことは保健医が俺の体調べるってのか!?)
ヘタすれば背中の傷も見られてしまうし、発作の事も知られてしまう
多少混乱しつつ考えている内に保健医は俺の隣に椅子を引いて座ると
聴診器を耳につけてチェストピースを俺に向けてきた
サポートで付いてきたらしい看護士が後ろで色んな道具を用意している
その看護士は女性で、どこか頬を赤らめて保健医の後ろで作業をすすめている
・・・まぁ保健医はいわゆるハンサムなので世の女性がそうなるのも否めないのだが
何気なく俺にもチラチラと視線を向けてきているのも事実である



「おら、さっさと服脱いでこっち向け」



そんな色の含んだ視線に気付いていないらしい保健医は非常に面倒くさそうに俺を見て
その様子からあることに気が付いた



「そういや保健医、学校は・・・?今日平日だろ?」

「ああ、お前の見舞いも兼ねて今だけ一時外出許可を貰ってきた」



学校専属の保健医がそれでいいのか、と思うが
今目の前に来てしまっているのだから仕方が無い



「それにお前はうちの生徒だからな、ヒトミからなんらかの持病を持っているとまで聞くと
どうせ後で俺のところにもその詳細な書類が来るだろうと思ってな
二度手間になるからこうやって直接来ただけだ」



(ヒトミ・・・余計なことまで・・・っ)
妹に想いを馳せつつガクーっと肩を落として目の前の保健医をチラリと上目遣いに見る
この先生なら守秘義務をきちんと守りそうだし
この傷や発作の簡単な説明をしても他言はしないだろう
悶々と考えを巡らせていると保健医はまた服を脱ぐように催促をかけてきた



「・・・勿体ぶるなよ
さっさとその服脱いで綺麗な肌見せろ、それとも脱がしてもらうのがお好みか?」

「セクハラで訴えんぞ、エロ教師」



保健医の発言に思わず口元を覆った看護士と厳しい目つきを崩さないケビンを横目に
俺は諦めて服のボタンに手をかける



!」



その様子を即座に止めに入ろうとしたケビンを視線で制して



「・・・保健医、今から見るものも、俺の症状についても他言しないって誓ってくれるか?」

「・・・お前も・・・人には言えない病気持ちだったって訳か?」

「・・・?お前もって・・・他にも誰か居るのか?」

「いや、なんでもない
大丈夫だ、こう見えて口は堅いからな、学校では俺もバックアップしてやるよ」

「・・・サンキュ、信じるぜその言葉」



今だ心配そうな表情を浮かべるケビンに大丈夫だ、と笑みを向けると
変わりに看護士と退室を促してもらって
病室の扉が閉じて、部屋の中には俺と保健医だけが残った

俺は無言で上半身の服を脱ぐ
最初は胸に聴診器を押し当てて、流れ作業のように後ろを向くように指示される
言われるままに保健医に背中を向けてそこで保健医が息を飲むような気配を感じ取った



「・・・酷い傷だな」

「鷹士には絶対に言わないでくれよ」



俺の言葉に一瞬動きを止めた保健医
その気配を感じて首だけ振り返れば僅かに眉を顰めた保健医と視線が合う



「・・・何故、に知られたくないんだ?」

「あいつこの傷見たら絶対大慌てするか失神しかねないだろ」

「理由はそれだけか?」

「他になにがあるってんだよ」



何時もの保健医ならここまでしつこく尋ねてくる事はないだろうに
様子がおかしいように感じられて、しかしそれを問いただす気にはなれずに
そのまま保健医の健診を受けた