乙女的恋革命ラブレボ
花一匁 ―はないちもんめ― 45
ヒトミを助けるに決まってるだろう
真顔で告げられた答えは
予想とは相反したものとなって
俺の耳に届いていた
「あ、そぅ・・・」
予想外の答えに思わず苦笑いになって
そりゃそうだよな、ヒトミは女の子だし気苦労も多くて眼が離せないんだよな
そう納得するも、何故か心臓が酷く痛む
「ああ!勿論ヒトミだ」と迷いの無い視線で再度告げられて
その場に居たたまれなくなった俺は鷹士の顔を見る事もなく
「おやすみ」と小さく告げて玄関に向かう
後ろで鷹士の呼び止める声が聞こえたがそれすら無視して扉を閉じると
暫くその場に立ち止まる
なんでこんなに息苦しいのだろうか
気分が悪い
発作の前触れでもないようなので更にそれが不可解でならない
少し風にでも当たってくるか、とエレベーターを降りてマンションの玄関に向かった
以前旅館で拉致されそうになってから夜、1人で外に出る事はしなかった為に
久しぶりだなと思考の隅で考えて
今はとりあえずこのもやもやした気分を晴らしたい、と玄関から外に出ると
秋の冷たい風が俺の体を包むのが解った
力いっぱい背伸びをして深呼吸をする
静かだ
秋の鈴虫の鳴き声が辺りに木霊している以外は何も聞こえない
通りにも誰の姿形も見えなくて
丁度良い、と思って少しだけ夜道の散歩をすることに決めた
そのまま出てきた為に上着も着ていなくてワイシャツだけだった為に少々肌寒い
でもこの気分を晴らすには丁度良い温度だと判断して夜道を歩き始めた
時間は多分9時か10時辺りだろう
(ジョギングでもすっかなー・・・)
とりあえずスッキリしたいときは運動に限る
そうと決まれば、とラフな格好だが走ることに決めた
回りも既に暗いし、ジョギングしている人間が俺だと気付く人もいないだろう
ほとぼりが冷めてきたお陰で最近ではマスコミやファンの張り込みもなくなっている
俺にとっては有り難い限りだった
しかし
誰にも外出する事を告げずに出たのがいけなかったのか
ただ気分を晴らしたい一心で走ろうとしていた俺は、普段であれば自分の立場も考えて
ケビン辺りに一言告げてから外出をするだろうにそれもする事も無く
それをしなかった事の重大さに気がついたのは
一頻り走って公園にたどり着いた頃の事だった
「?」
・・・おかしい
先程から呼んでいるのに一向に返事が無い
もしかして部屋にいないのだろうか
となればやはり『 また 』ケビンさんの所に行っているのか
さっきと会話をして
去り際のの雰囲気のおかしさにちょっと経ってから気が付いて
こうやって今部屋の前に訪れているのだが
ノックをしても、名前を呼んでも反応が無い
オマケに珍しく鍵がかけられていて安易に入ることも出来ない
もしかして俺がヒトミを助けると言った事に腹を立てているのだろうか
昔からは外国で暮らしていて、家族愛に餓えていたのだとすれば
双子だとしても家族の下に帰ってきている今としては
ちょっとは贔屓して欲しかったのではないだろうか
そんな考えが脳内をぐるぐると駆け巡っていて事の重大さに気が付いた今となっては
今すぐにでもの顔を見ておかないと落ち着かない訳で
そして先程の質問の答えに補足をしなくてはならない訳で
俺は決してを見捨てるつもりであの結論をすぐさまはじき出したわけではない
むしろヒトミよりの方が大事だと思っているのは事実で
だからこそ言うつもりだった
『 ヒトミを助けてと一緒に死ぬよ 』
しかしソレを言う前にはリビングから出て行ってしまったのだ
何か誤解をされていなければいいのだが
ただでさえ今はが日本の事務所に勧誘されていて
また海外で働くか、日本の事務所で活動を再開するかという
重大な問題に直面していると言うのに
兄としては絶対に海外で働くなんて許すことが出来ない
ずっと自分の傍に居て欲しい
しかし最終的に結論を出すのは本人なのだ
そこまで考えると余計に不安になって
の部屋の前で右往左往する
「・・・鷹士さん?」
ふと、耳障りの良い声が聞こえて床から視線を前に向けてみれば
きょとんとしたケビンさんとジェイさんの姿
「様のお部屋の前で何をなさっているのですか」
ジェイさんが高圧的な態度で俺を圧倒する
凄むような雰囲気に思わず一歩後ずさったがそれよりもこの二人がここに居ると言う事は
はやはり不貞寝でもしているのだろうか
「あ、いえ、今が何処に居るのか気になって・・・」
そう告げてはっとする
どうせこの二人ならの居場所など解りきっているだろうに
ケビンさんの口から「私の部屋に居ますよ」などという言葉を聞きたくなくて
「やっぱりなんでもありません」と取り繕ってその場を去ろうと口を開いた時
「鷹士サンの所に居ないのですか?」
俺の言葉に凍りついたように動かなくなって
眉間に皺を寄せてまるで俺を睨むような視線を向けてくるケビンさん
サングラス越しでも直に解るほどに雰囲気を一変させたジェイさん
二人の様子の変わりように首を傾げて「はぁ・・・」と呟く程度に返事を返せば
「ジェイ、GPSの確認をします
貴方は周囲の警戒を」
「了解」
ジェイさんは走って廊下を駆け抜けるとそのまま下の階に降りてしまった
俺の返事を聞いたケビンさんは俺を押しのけると
合鍵を持っていたのか勝手にの部屋の扉を開けると入って行く
「!!」
ケビンさんが呼んでも返事は無い
そして部屋が暗いことから誰もいないのだと判断できた
少ししてケビンさんが部屋から出てきて携帯片手に慌てたような足取りで自室へ向かう
そのただならぬ様子に思わずケビンさんの腕をつかんで
「あの・・・!は居なくなったんですか!?」
「・・・私達SPに何も告げる事無く居なくなるのはありえないことです
それこそまた誘拐されたか何かに巻き込まれたかのどちらかしか考えられません」
それだけを告げるとケビンさんは俺がつかんだ腕を振り払って自室に走る
ケビンさんの言葉を聞いた俺は呆然とその場に立ち尽くした
(俺の・・・所為なのか・・・?)
そんな言葉が脳裏を過ぎって
(俺が・・・あんな返事を返したから・・・?)
そうとしか考えられないタイミングでのの失踪
ショックの余りその場から動けずに居るとまた廊下の先からケビンさんが走ってきて
そのままの部屋に入ると何かを探し始める音が聞こえて
何をしているのかと気になって部屋に足を踏み入れると
凍りついた表情のままが所持していると思われる携帯を手にとって
見つめているケビンさんが視界に入った
「・・・ケビンさん・・・?」
恐る恐る声をかけてみれば
ケビンさんの視線はすっと俺に向いて目つきを鋭くして口を開いた
「の失踪に何か心当たりでもおありですカ
の所在がつかめない、こんな事は我々にとってあってはならない事です
警察に連絡を」
視線が外れる代わりに ふぅ、と不機嫌な表情のまま吐き出されるため息
「は警察沙汰を酷く嫌うのですが」と呟くように告げられて
何故かその言葉や態度が勘に触ってケビンさんを睨みすえてしまう
まるで昔のをさも自分だけが知っているかのような口ぶり
お前が居るから問題が起こるんだと言うような態度
自分たちにしか見つけられないんだというような言葉使い
気が付けば彼の襟元をつかんでいた
それと同時に
右手に痛みが走るのが解った
「やばい」
何がやばいって
ちょっとこれはかなりやばいのではなかろうか
なにがやばいって
俺、ケビンにもジェイにも行き先告げてない
しかも
携帯持ってくるの忘れてた
やばいと呟きつつ携帯を探す手は胸ポケットズボンのサイドポケットと忙しなく
ぱたぱた動いて、まるでライターを探すかのような仕草を何度も繰り返す
場所はマンションから一番近い公園のベンチ
携帯の感触を感じられない俺はベンチから腰を上げると更にズボンの後ろポケットも確認する
・・・やはり無い
そんな事実に一気に血の気が引くのが解った
普段なら絶対肌身離さず持ち歩いているのに
思わず心の中で呟く
「バナナって美味いよね」
そ ん な バ ナ ナ
・・・
・・・バナナ?
ふと前を見ればかじりかけのバナナが目の前に
何故バナナが目の前にあるのかと思わず凝視
「わん!!」
「ぎゃぁあっっ!!!??」
隣から聞こえたでかい声に思わずでかい声で驚く
足元から聞こえたのでその声のした方から飛びのいて見れば
「あはは、驚きすぎだよ」
「・・・ま、雅紀?と、シュタイン??」
ケラケラと笑いながら俺を見ていたのは雅紀
公園の外灯でぼんやりと姿が見えるが十分彼だと判断できた
突然目の前に現れた一人と一匹に眼を瞬かせて
跳ね上がった心臓を落ち着ける為にはぁ、と深い息をつく
「俺の混乱を一気にギャグに摩り替えたのはお前か」
「なんの話だよ」
身に覚えの無い雅紀の当然の発言
「なんでもない」と返事を返してまたベンチに腰を据える
雅紀も隣に座り込んでバナナをほおばりながら俺の顔を覗き込んできた
「何かあったのか?こんな夜中に1人で出歩くなんて珍しいじゃん」
「ああ、ちょっとな・・・ジョギングでもしようかな〜と」
思わず眼が泳ぐ
しかし暗がりで気付いていないらしい雅紀は気にした風も無く
「へぇ、のダイエットにでも影響されたの?」
「そんなんじゃねーけど・・・あ」
「ん?」
「雅紀!携帯持ってるか!?」
僅かな希望を見出して身を乗り出して訊ねる
しかしその希望は雅紀が首を振った時点で脆くも儚く崩れ去った