乙女的恋革命ラブレボ



 ―はないちもんめ― 46









「も、持ってないのか携帯・・・」



俺の横には悲愴に表情を歪めるの姿
血の気が引いているのか顔色も悪い
よくそんな状態でジョギングなんてしてるなぁと思いつつも
何があったのか再度訊ねてみれば



「誰にも言わずにここまで出てきちゃったんだよ・・・やばい、物凄くやばい・・・」



はぁ?
その歳で誰かに行き先を告げないといけないほどの家って厳しいのか?
そこでふと脳裏を過ぎったのが鷹士さんの存在
そうか、あの過保護が居ればそうなってもおかしく無いよな、と告げれば



「そんなんじゃねぇ!鷹士は兎も角ケビンがやばいんだよ!!」



ケビンってのSPだよな
俺としては秋の夜中に公園でと出会うと言う
最高のシチュエーションに嬉々爛々としてるんだけど
・・・なんて思っている事は心の中に留めておく
とりあえずケビンさんの何がやばいのか気になって聞いてみれば
は昔あった事をぽつぽつと話し始めた



「海外でのことなんだけど
ケビンが付いてから数年経って、俺が誰にも告げずに外出したことがあって
俺が忘れてただけなんだけどさ、こ一時間いなかっただけで警察沙汰になって
ゴシップ誌にも大きく取り上げられてそりゃもう大騒ぎ・・・
それはどうでも良かったんだけど帰ってきて一番怖かったのがケビンでさ」

「うんうん」



モゴモゴとバナナを食べつつ相槌を打つ



「あいつ怒るとすっげー怖いんだよ
野生丸出しで襲い掛かってくるからあの時どれだけ喰い殺されると思ったことか・・・
しかも長時間懇々と説教されて・・・蛇に丸呑みされた蛙みたいな気分で
正に生き地獄、あの作り笑いが怖すぎる・・・」



終いにはガタガタと震え出す
そんなに怖いのか、と思いながらも面白くないのは俺



「そんなこと話す暇があったらダッシュで帰ったほうがいいんじゃないの?」

「・・・怖くて帰れねぇ」



そんなに怒ったケビンさんは恐ろしいのか
しかしそれは好都合、と無意識に口の端が釣りあがる



「まぁ・・・帰す気は無いんだけどさ」

「・・・雅紀?」

「心変わりは人の世の常って言うじゃん」

「いや、話が全然解んねぇ」



・・・前に告ったのにもう忘れてるのかこいつ
ちょっとダークな自分が顔を出したのが解った
それでも告白して男だからとよそよそしくなられても余計に困る所ではあるが
はぁ〜、と長いため息をついて食べ終わったバナナの皮をゴミ箱に投げ捨てると
に向き直って肩をつかむと俺のほうに向かせた
意味ありげにゆっくりと顔を近づけると俺の様子にきょとんとした顔で目を瞬かせた
その仕草と表情に思わず俯いてニヤケそうになるのを抑えて

(ぐっ・・・可愛い・・・っ)

夜遅く、外灯に照らされた公園のベンチに二人っきりという最高のシチュエーション
これはもう据え膳喰わぬは男の恥というべきだろう
ただ単に自分の欲求に負けたということでは決して・・・無いこともない



「あのさ、忘れてると思うけど」

「うん?」

「俺の事好きだって言ったの、覚えてる?」

「へ?・・・あ、あぁ、アレか」



視線を斜め上に上げて考える素振りを見せた後思い当たったのか
俺に両肩をつかまれて引き寄せられている状態でぽんと手を叩くと思い出した、と言った
しかし態度はあっけらかんとしていて緊張感も警戒心の欠片も無い



「んで?それが?」

「あのさぁ、がそんなだから隙が出来るんだよ
・・・こんな風に、さ」



告げながら更に肩を引き寄せて


そのまま目の前の唇をふわりと塞いだ








(な・・・何・・・?)

突然の事に硬直して抵抗も忘れたまま唇に触れる感触を感受していた
俺が抵抗しなかったのをいいことに更に肩を引き寄せて
肩をつかんでいた手は俺の背中に回って、俺の体は別の体温に包まれる

更に唇を貪ろうと雅紀が俺の後頭部に手を添えた時点で





シャッター音が数回、辺りに鳴り響いてフラッシュが俺たちを照らした





そして俺たちの目の前の茂みから走り去る数名の人影



「・・・」

「・・・」

「・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ か は ら く ん 」

「な、何・・・?」



二人して呆然と走り去る人影を見送って
シュタインは先程から警戒したように牙を剥いて唸っている
俺はするりと妖しい手つきで雅紀の首元を捉えると
まるで服を脱がすのではないかと言うほどつっっと指先で喉仏から鎖骨に伝って
両手で襟元を捉えると満面の笑みを浮かべながら雅紀を正面に捕らえて



「知ってるかな華原くん、今のをね?俗に言うね?

パ パ ラ ッ チ

っていうマスコミの一部でね?ゴシップ誌とか主に取り上げてる
スキャンダルを餌に生きてる宜しくない仕事をしてらっしゃる人種でね?」

「く、苦し・・っ」



ぎうぅぅぅぅうううう・・・っ!と軋む音がするほど雅紀の襟元を締め上げる俺
直後その襟元を全力で前後に揺り動かす



てめぇわかってんのか今の完全に撮られてんだぞ
この不始末どう落とし前つけやがる気だ!!!!!




これでもかと俺の叫び声はあたりに響き渡った
今更ゴシップ等で取り上げられても気にするほど気が小さいわけでもないが
日本でスキャンダルを取り上げられるとは思いもしなくて流石に焦る

しかも

男とのキスシーンなんて日本で言えばかなりの評判になるだろう
勿論悪い意味でのことなのだが



「全く、どう説明すればいいんだよ!これじゃあますますケビンに殺されかねない状況に・・・!
それにお前にだって迷惑がかかるんだぞ!?」

「あはは、俺は既成事実ができて嬉しい限り・・・ぶっ」

「笑い事じゃ無い!!」



全く焦りも見せない雅紀の顔の中心を平手打ちする
これ以上ここに居てもロクな事が無いと踏んで立ち上がるとマンションに戻る為に足早に歩く
隣に雅紀も並んで一緒に帰るよ、と言いながら苦笑いを俺に向けてきた

マンションの前まできて一度足を止めて深呼吸する
俺が家を出てから一時間以上は経っている筈だ
(ううっ・・・怖い・・・っ)
過去のケビンを回想して足が竦む
雅紀はその様子を横目に手を後頭部に仰いで俺の手をつかむと
行こうぜ、と呟いて足を進めた

とうとう最上階の管理人扉の前に着いて
中から鷹士やケビンの話し声が聞こえてまたもうっと後ずさる



「俺が連れ出したって言うからさ
パパラッチのことだって・・・大丈夫だって、きっと」

「パパラッチはいいんだけどさ、
本当、ケビンから庇ってくれないと末代まで祟るからな・・・!」

「OK OK、任しとけって」



そう言って俺に笑みを向けながら雅紀が戸を押して
ガチャリと音が立つが早いか、扉を開ききった時点で鷹士が飛び込んできた

飛び込んできたというか突進してきたというか突撃してきたというか衝突してきたというか



――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



ガンゴンガンドカと何かにぶつかったような音の後に
自分の胸が押し潰れるかと思うほどの衝撃が走る
物凄く速い行動だったらしく気がつけば俺は鷹士の腕に抱きしめられていた
余りのことになんだと思う間も無くバクバクと心臓を鳴らして
俺の頭上で「良かった!何事も無くて良かった!!」と頬擦りしながら泣き始める兄

その様子を見上げて、はぁ、と呆れたため息をつく
それでもその腕の温度に安心感を覚えて無意識に鷹士の背中に腕を回していた
雅紀はそれを目にして僅かに顔を顰める







不意に聞こえた声に体が固まって、そろしと鷹士の背中ごしにリビングの先を見ると
無表情のケビンとジェイが立っていた
その光景に慌てて鷹士から離れると二人に走りよって弁解を切り出す



「あ、あのな!?最近マスコミも減ったし、夜の散歩も久々で
たまには体動かそうかなーとか思ってちょっと出てただけなんだ!
その時ついうっかりケータイ忘れて、それに気付いて直戻ろうとしたんだけど
雅紀と出くわしてついつい話し込んじゃって・・・!」

「「・・・」」

「・・・ご、ごめんなさい・・・」



早口で言い訳するも、二人は無表情で何も言わずに俺を見つめる
その視線から逃れるように下を向いて呟くように謝った
俺とケビンの足元を映す視界にケビンの腕が伸びてくる
ゲンコされると思ってぎゅっと目を瞑るが、先程鷹士に抱きつかれたように
信じられないことにケビンまでもが同じ様に俺を抱き寄せてきた

(・・・ええ?!)

こんなことの後にケビンに抱擁されたのは初めてで、信じられない、と顔を上げると
目を細めて笑みを浮かべるケビンと視線がかち合った
そこでようやく気がつく
ケビンの頬が殴られたように赤く腫れ上がっていて



「け、ケビン・・・?お前、そのほっぺたどうしたんだ?」

「・・・イえ、大した事ではありません」

「え、でも・・・ジェイと殴り合いでもしたのか?」



SPであるケビンが殴られるなどありえないことで
ジェイに目を配るも、黒のサングラスで顔色は解らないが
それでも雰囲気からそういう事はしていないという事は解って
どういうことだ、ともう一度ケビンを覗き込むとケビンは苦笑いをした



「貴方が姿を消した時・・・少しイライラしていまして
ある方が私の頭を冷やしてくださったんですよ」



怒られて説教かと思っていたのにあまりに意外な状況にぽかんと口を開けたまま
目配せするケビンに従って視線を動かせば


視線を動かした先に居心地が悪そうにする鷹士
ふと手を見ればシップが当てられていて
俺がそれに気がついたのが解ったのか、さっと背後に手を隠すと
誤魔化すように鷹士は苦々しい笑みを浮かべた



「・・・鷹士が・・・ケビンを・・・?」



俺のSPを殴る度胸のある奴なんてこの世に居たのか

そんなことを考えながら
明日はもっと酷い状況が待ち受けていることは
すっかり頭の隅に追いやられていた